慢性腎不全と余命を切り離すことはできない
腎不全――。
ガン、心臓病についで犬の死亡原因としては3番目に多い病気です。
腎臓は血液をろ過して老廃物や過剰な塩分を尿として排出し、体に必要な成分は再吸収するという重要なはたらきをしています。
さらには血液を作ったり血圧を調節したり体液量の調節をしたりと、生命維持に欠かすことのできない臓器の一つでもあります。
そんな命と直結した腎臓は、機能が低下してもすぐには体に顕著な症状が表れません。
そのせいで、末期的な状態になって初めて腎不全に気づくこともあるのです。
肝臓とならんで腎臓が「沈黙の臓器」と呼ばれるのはそのためなんですね。
そして、腎臓の機能の75%以上が失われた状態を「腎不全」といいます。
犬の急性腎不全
腎不全と一口にいいますが、実際には急性腎不全と慢性腎不全に分けられます。
急性腎不全は腎臓病の他に泌尿器に関わる病気(尿路結石、膀胱炎、前立腺肥大など)が原因となって引き起こされ、短期間で腎臓の機能が低下した状態です。
しかし、急性腎不全は原因がきちんと特定され、適切な治療を施すことで助かる可能性も高いため、とにかく病気の兆候をいち早く発見し、即治療を開始することがなによりも大切です。
犬の慢性腎不全
慢性腎不全を発症するのは、そのほとんどが10歳以上の高齢犬です。
腎臓内のネフロン(血液をろ過し、尿を作る器官)が徐々に破壊されていった結果慢性の腎不全となるため、慢性腎不全と診断された時点で腎臓の機能のほとんどが失われた状態になっています。
慢性の腎不全は、腎臓の機能の残数と症状によってステージが4つに分けられています。
ステージ1
尿の色が薄くなるが、それ以外の症状はとくにでていない。
→残存している腎機能は34%以上
ステージ2
水を多く飲むようになり、尿の量も増える。
→残存している腎機能は26%~33%
ステージ3
食欲不振、嘔吐、貧血。尿毒色による痙攣や震えが頻発し、血便、血尿、吐血などをする場合もある。また口からアンモニア臭がするようになる。
→残存している腎機能は11%~25%
ステージ4
慢性腎不全の末期。尿毒症が進行し、脳神経系や臓器全般に深刻な障害が起きる。
→残存している腎機能は10%以下
ステージ4まで進行すると苦しみを取り除くための治療にも効果がみられなくなるため、飼い主が安楽死を考える時期とも言えます。
慢性腎不全の余命
慢性腎不全が完治することはありません。
判明した時点で残っている腎臓の機能を少しでも長持ちさせるしか方法はないのです。
そのため、どんなにつらくても余命について考えないわけにはいきません。
一般的に、腎臓の残存機能が30%前後の状態で余命はおよそ1~2年と宣告されますが、これはもちろんその後の生活や治療により、もっと長く生きることもあれば、もっと早くに命を終えることもあります。
そして末期と診断された場合の多くは数日から1週間、長くても1ヶ月程度で亡くなっていきます。
慢性腎不全と診断されたあとの治療
慢性腎不全と診断されたあとは、犬の体調を安定させたり苦しさをとるための治療がされます。
- 皮下輸液治療(水分補給のため)
- 血圧を下げる薬剤治療(高血圧は腎臓に負担をかけるため)
- 塩分やたんぱく質を制限した食事(腎臓の負担を減らすため)
また、上記以外の治療としてはヘルスカーボンという活性炭の一種によって老廃物を吸着し、体外に排出する作用のあるサプリメント(ネフガード)が用いられることもあります。
できる治療はすべてしてあげたい――そう願っても、治療費の問題から断念せざるをえないことだってあるでしょう。
どこまで治療を続けるのか、どのような状態になったら最期の時が近づいているのか。
そういったことをきちんと相談できるかかりつけの獣医師が必要不可欠です。
慢性腎不全の末期と診断されたら
慢性腎不全の末期になると、治療をしても以前のように効果があがらなくなり、愛犬が苦しむ姿を見ていることしかできなくなります。
しかし、どんなに体調が悪くても、犬にとって最高の場所は飼い主の近くです。
だからこそ、目をそらすことなくそばにいてあげてください。
可愛くてたまらない愛犬の最期の瞬間に立ち会うのはとても辛いことです。
しかし、立ち会わなければその後悔をひきずり続けることになり、愛犬の死という苦しみを乗り越えるまでに長い時間を要することになるでしょう。
これは、仕事で愛犬の死に立ち会うことができなかった、私の経験から断言できることです。
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