吠えない犬、という人間の身勝手な幻想

犬はなぜ吠えるのでしょうか。
最も明快な理由は、生きているからです。
何を当たり前のことを、と思われるかもしれません。
しかし、生きているからこそ吠えるのであり、それによって何かを誰かに伝えようとしています
警戒だったり不安だったり甘えていたりと、伝えようとしている内容はその時によって様々。

ところがその吠え声が人間社会の中では、しばしば「騒音」として扱われてしまうのです

吠えない犬は飼い主によるしつけが生み出すもの

犬を飼おうとする人に、どんな犬が欲しいのか条件をたずねると、真っ先に「吠えない犬種」をあげる人が少なからずいます。
中には「小型犬のほうが声が小さいからチワワがほしい」というトンチンカンなことを言う人も。
チワワを飼っている人が聞いたら「はぁ!?」と言いたくなるようなこのセリフ。
当人にしてみたら本気で言っているわけですが……。
チワワが本気で吠えたら、それはもうびっくりするぐらい、なかなかの騒音っぷりを発揮するのは周知の事実。

つまり、犬を飼おうと思ったら「鳴くとうるさいから吠えない犬がいい」という発想は、そもそもの出発点が間違っているのです。
どんな犬も基本的には吠える、もしくは鳴く生き物
それを理解したうえで、飼い主のコマンドによって鳴きやむ犬に育てることが必要なんです。

あてにならない吠えない犬種ランキング

ところがです。
世の中には「吠えない犬ランキング」なるものが数多く存在しているんですよね。

ランキングの中身はすべて同じというわけではなく、それぞれで紹介している犬種には多少の違いがありました。
そのラインナップをざっと見てみると、
フレンチブルドッグ、パグ、ボストンテリア、マルチーズ、ヨークシャーテリア、ミニチュアシュナウザー、キャバリア、狆、ペキニーズ、プードル、シーズー、ポメラニアン、チワワなどなど。

なんですか、これ?
このままいくと人気の小型犬種が全部でてきそうな勢いですね。
そして、いままで犬に関わってきた中で言えることとしては、少なくとも上記にあげた犬種の中で、生まれつき吠えない子なんて1匹も出会ったことがありません
むしろ、キャンキャンワンワン大騒ぎをしやすいと認識している犬種がいくつも含まれていることに驚きました。

もちろん、比較的吠えにくい犬種もあげられてはいます。
たとえば、多くのランキングで1位にあげられているフレンチブルドッグ。
その理由はなんとなくわかります。
確かにワンワンキャンキャンするタイプの犬ではありません。

しかし、フレンチブルドッグの中には飼い主の制止を振り切って暴走し、人や犬に噛みついて騒ぎを起こしてしまう子も少なからずいるんですよね。
吠えない=穏やかで大人しい、というイメージをもたれがちですが、フレンチブルドッグは興奮しやすい性質のため、勘違いして安易に飼うと、「こんなはずではなかった!」と飼い主をあわてさせることがあるのです。

バセンジーは吠えないって本当?

吠えない犬種といえば、バセンジーは最もよくあげられる犬。
たしかにバセンジーは犬らしく「ワン」と吠えることはあまりありません。
では吠えたり鳴かないかといえば、そんなことはないんですよね。

バセンジーは遺伝的に鳴かない古い犬種の一つで、人間が改良をしまくった犬種とは一線を画す犬
つまりはオオカミに近い性質を残しています。
そのため、ワンとは鳴かなくてもワオーンという遠吠えはするんですよね。
それからキュンキュンだとかクンクンといった要求を表わす鳴き方もします。
でもその程度だったら飼いやすいかも……と思うかもしれません。

しかしバセンジーは太古からの遺伝子が強く残っている犬。
すなわち、簡単にトレーニングができるように改良された犬とは違うんです。
しつけやトレーニングがしやすいか、しにくいかで言えば、確実にしにくい部類の犬種

ただし、これはバセンジーの欠点ではありません。
これこそがバセンジーがバセンジーたるゆえんであり、この野生的な魅力を愛せる人こそが、バセンジーの魅力を引き出してあげられる飼い主です。
決して、吠えないからという理由で選ぶべき犬ではありません。

良い飼い主良い犬を育てる

吠えると嫌だから、吠えない犬を飼いたい。
この感覚で犬を選んだ人の多くは、犬をまともにしつけようとしません。
その結果、うるさく吠えて、なかなか鳴きやまない問題犬を作り出してしまうのです。

でも、それって当たり前のことですよね。
楽をして吠えない犬を手に入れようだなんて、犬が生き物である以上、そんなに都合よくいくわけがありません
犬と暮らすことは、命を迎えること。
吠えてほしくないときに吠えない良い子に育ってほしいなら、まずは飼い主こそが良い親にならなければ絶対に無理な話しなんです