ステロイドは正しく理解してこそ威力を発揮する薬
ステロイド――。
その名前を聞いただけで、「怖い薬」だと過剰反応してしまう飼い主さんは、少なくありません。
なぜそんなにステロイドを怖がるのかといえば、やはりそれは副作用が心配だからなんですよね。
さらには依存してしまうと後々厄介なことになる、という負のイメージが影響しています。
果たして、ステロイドは使用を避けるべき恐ろしい薬なのでしょうか。
薬は都合のよい治癒魔法ではない
そもそも薬とは、体内に摂取することにより、なにがしかの作用を起こさせるための物質です。
その作用が期待したものであれば「主作用」と呼んでありがたがり、それ以外は「副作用」と呼んで忌み嫌っているわけですね。
身も蓋もないことを言ってしまえば、薬は都合の良い治癒魔法ではありません。
期待する効果以外の作用が起きてしまうことは、ある意味当たり前のことなんです。
もちろん、効果が高いのに副作用が軽くて済む薬が一番良いわけですが、なかなかそう簡単にはいきません。
副作用を絶対的に避けたいからといって、効果そのものまで絞ってしまったら、そもそもその薬を服用させる意味がなくなってしまうわけで・・・。
だからこそ、主作用と副作用の両面をきちんと理解したうえで、愛犬にも薬を服用させることが最も望ましく、おそらくそれが一番効果をあげることができるはずなのです。
ステロイドは治療薬ではなく、今起きている症状を劇的におさえるための薬
ところが、ことステロイドに関しては、どうにも「怖い」というイメージばかりが先行しているように思われます。
しかし、愛犬の体に何か異変が起きたとき、ステロイドが劇的に症状を取り除いてくれる場面はとても多いんですよね。
良いか悪いかは別として、ステロイドって本当に良く効く薬なんです。
ただし――。
ステロイドはあくまでも症状を取り除いているだけ。
病気の原因そのものを取り除いているわけではありません。
ステロイドを服用して症状がおさまったからといって、それが改善しているわけではないことを、飼い主はきちんと理解しておくべきです。
だからと言って、それでは意味がない、ステロイドなんて役に立たない……などと短絡的に考えるべきではありません。
今この瞬間、愛犬を苦しめている様々な症状――痒みであったり痛みであったりを、まずは取り除いてやることはとても重要なことなのです。
そのうえで、根本的な治療をどうしていくのかが重要になってくるのではないでしょうか。
そこを理解しようとせず、ただ闇雲にステロイドを避けようとすれば、愛犬はいつまでたっても症状に苦しめられることになるでしょう。
一時的とはいえ、劇的な改善が見込まれるステロイドは、だからこそ効果と副作用の両面をきちんと理解したうえで、最も効果的に役立てるべき薬なのです。
どういう症状にステロイドが使われているのか
ところで、犬にステロイドを使うと聞くと、アトピー性皮膚炎やアレルギーなどを思い浮かべる飼い主さんが多いのではないでしょうか。
実際のところ、痒みを引き起こすアトピーやアレルギーにステロイドが使われることは多いです。
しかし、ステロイドはなにも痒み止めとしてだけに用いられているわけではありません。
ステロイドは驚くほど様々な症状に用いられ、そして症状を軽減させているのです。
アトピー性皮膚炎
痒みを止めるためだけではなく、免疫抑制剤として抗生物質と併用して使われている。
アレルギー性の気道疾患
喘息などの咳がひどいとき、気管を拡張し、さらには炎症を抑えて咳を止めるために使われている。
抗炎症剤
関節や骨の疾患など、体内で炎症を起こしている原因物質を抑える働きがあるため、炎症を抑えるために使われている。
鎮痛剤
痛みの元となる物質を抑制する働きがあるため、痛みを軽減させるために使われている。
ショック症状の緩和
急激に起きた全身の血液循環に関わるショック症状を緩和させるために使用されている。
血圧の低下
ステロイドには血圧を低下させる効果があるため、抗炎症、鎮痛などが必要で、なおかつ血圧も下げたほうが症状が改善する場合などに用いられている。
抗がん剤の一種
がん化した細胞が産出する毒素を緩和させる働きを期待し、用いられることがある。
このように、ステロイドには愛犬を苦しめている症状を、ひとまず抑え込む効果が期待できるのです。
だからこそ、様々な場面でステロイドが処方されているわけですね。
ステロイドの副作用とは
なんとなく闇雲に副作用が怖がられているステロイド。
では、実際の副作用とは、どのようなものでしょうか。
短期間だけステロイドを使用した場合の、比較的よく見られる副作用
- 食欲が増進する
- 飲水量が増加する
- 尿の量が増える
短期間の使用でも体質によっては見られることのある副作用
- 嘔吐や下痢といった胃腸障害
- 傷の化膿
- 感染症
長期間連用した場合に見られることのある副作用
- 肥満、体重過多
- 皮膚が薄くなる
- 筋肉の低下
- 胃潰瘍、十二指腸潰瘍
- 肝機能障害
- 副腎の機能低下(医原性クッシング症候群)
- 糖尿病
ステロイドの投薬を素人判断で中止してしまうことの危険性
ステロイドを長期間連用した際に起こりうる副作用を考えると、長期連用はマズイ!と思っても無理はありません。
これまではステロイドの効果で劇的に症状が抑えられていたけれど、こんな恐ろしい副作用の可能性があるなら、やはりやめてしまったほうがいいのではないか。
今は症状が落ち着いているから、今がやめ時ではないだろうか。
そんな素人判断によっていきなりステロイドの服用を中止してしまうと、逆に大変な事態をまねいてしまうことになりかねません。
なぜなら、ステロイドをいきなり中止してしまうと、アジソン病(副腎皮質機能低下症)を発症する可能性が高くなるからです。
では、なぜアジソン病を発症するかといえば、投薬によって体内に一定量が保たれていた副腎皮質ホルモンが、薬の服用をいきなりやめてしまったことで、足りなくなってしまうからなんですね。
副腎皮質機能低下症を甘く見てはいけません。
重症や急性症状の場合は、命を落とすかもしれない、とても危険な状態なのです。
ステロイドは正しく使い、正しくやめてこそ、最大限の効果が引き出せる薬
ステロイドはなんでも治せる万能薬ではありません。
また、副作用が怖いからなるべく服用させないほうがよい薬でもありません。
ステロイドは、今この瞬間に犬を苦しめている、様々な症状を軽減させるための薬です。
ステロイドは魔法の薬ではありませんが、一時的とはいえ、魔法のように効果をあげられる薬であることは間違いありません。
その効果を最大限に引き出して根治を目指すためにも、ステロイドは獣医師の指示に従って正しく愛犬に服用させ、さらにはどのように薬を減らしていくのかも計画にそって進めることが大切なのです。
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