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吠えないオオカミがなぜ吠えるイヌになったのか

この記事の目次

飼い主の頭を悩ませる犬の行動――。
その代表格とも言えるのは「犬の無駄吠え」です。

山の中の一軒家に住んでいるのであれば、どれだけ犬が吠えようと気にはなりません。
しかし、こと日本においては、そんな環境で犬と暮らしている人はかなりの少数派。
ほとんどの場合、犬は住宅街で暮らしています。
だからこそ、無駄吠えは近所迷惑につながってしまい、飼い主にとって悩みの種になるわけですね。

飼育放棄につながりやすい犬の無駄吠え

たとえばトイレのしつけが上手くいかないという悩みは、どれだけ深刻であろうと飼い主の家庭内だけにとどめることができる問題。
しかし、無駄吠えという騒音は他人の生活にまで影響を与えてしまうところが非情に厄介。
だからこそ、無駄吠えは飼育放棄につながりやすいのです。
保健所に持ち込んで殺処分してもらうのも、これ以上近所迷惑になるぐらいなら……という苦渋の選択なのでしょう。

オオカミは犬のように吠えない

ところで、犬はどんな理由から吠えているのでしょうか。
そもそも、犬の祖先であるオオカミは、犬のようにワンワンとは吠えない生き物
アオーンという声で遠吠えをしたり、キャンキャンと鳴くことはありますが、犬にとっては当たり前の吠え声をだすことは滅多にありません。
私たち人間が無駄吠えと呼ぶ鳴き方は、まさしく皆無。

でもこれは考えてみれば当たり前のことではないでしょうか。
なぜなら、野生において無駄に吠えることは、「私はここにいます」と敵に居場所を知らせるようなものだからです。
だからこそ、オオカミは必要最低限にしか声を出しません

そんなオオカミが遠吠えをする理由は、

  • 群れ以外の個体になわばりを主張するため。
  • 群れからはぐれた仲間に居場所を知らせるため。
  • 仲間との絆を確かめ合うため。

この3つだといわれています。

そして、子育て中のオオカミは遠吠えをしません。
これは、巣穴の位置を特定されて子オオカミが危険にさらされることを避けるためだと考えられています。
つまり、オオカミはきちんと明確な目的をもって声を出しているわけですね。

犬が吠えるようになったのは人間がそのように手を加えたから

では、なぜそんなオオカミを祖先に持つ犬が吠えるようになったのでしょうか。
それは、人間がそのようにオオカミを作り変えてしまったからです。

そもそも、なぜ人間がオオカミを生活の中に取り入れたのか。
その重要な目的の一つは、自分達の命をおびやかす危険な動物が近づいてくるのをいちはやく察知することでした。
さらには、家畜などを守るうえでも、犬は警戒のために遠吠えではなく吠えることを求められたのです。
その結果、本来はあまり吠えないオオカミからよく吠える犬へと変わった――これこそが、犬と人との歴史そのものなんですよね。

そして犬にとっての群れである飼い主とその家族は、野生時代のように遠くにはぐれて帰れなくなることはなくなりました。
だからこそ、犬は遠吠えをする必要がなくなり、吠えるという鳴き方に特化していったのです。

犬の役目が変わっても遺伝子はそう簡単には変わらない

このように、人間と暮らしてきた1万5千年という歴史の中で、オオカミは「吠える」という能力を獲得して犬へと変化しました。
そして、そのように望んだのは人間です

ところが、現代の犬たちの多くは愛玩犬であり、かつての犬たちとは役割が大きく変わりました。
番犬という呼び方すら、最近ではかなりすたれてきているのではないでしょうか。

家畜だった犬がペットとなり、今では家族の一員となった……。
でもそれは、ここ数十年の話しであり、警戒の役割を求められていた時代のほうがずっとずっと長いのです。
それなのに、何かを訴えかけようとする、もしくはなにがしかに警戒して吠え続けてしまうと、「無駄吠えがひどい」と言って、挙句の果てには保健所で殺処分されてしまう現実があります。
これって理不尽以外のなにものでもないと思いませんか?

吠えないオオカミを長い時間をかけて吠えるイヌに作り変えたのは人間です。
遺伝子に刻み込まれた「吠える」という行動が、そう簡単に消えないのは当たり前のことなんですよね。

犬が吠えるときには必ず理由がある

犬が吠えるという行為にはちゃんと意味があり、「無駄」に吠えている犬はいないのです。
何かに怯えているのかもしれないし、飼い主に対して何かを訴えかけているのかもしれません。
興奮するあまり、自分でも途中から訳がわからなくなって吠え続けることもあるでしょうが、それだって理由の一つであり、犬にしてみれば無駄に吠えているわけではないはずです。

私たち人間は、犬に対してとことん身勝手な生き物だと自覚するべきではないでしょうか。
吠えないオオカミを吠えるイヌに作り変えた以上、きちんと「吠える理由」に向き合う責任があるのです。