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犬の声帯切除はやむにやまれぬ最終選択であるべき

この記事の目次

「犬」は、人間が様々な目的のために、姿形や性質を作り変えてきた生き物です。
羊や牛の番、ネズミの駆除、猟で仕留めた獲物の回収などなど・・・。
もちろん、単純に可愛がることだけを目的として作り出された犬種もいます。
犬たちは人間のために物理的、あるいは精神的に役立つようにと姿かたちを変えられ、性質を変えられ、そうして今に至っているわけですが。

生れ落ちてから後にも、犬は人間の都合で肉体を作り変えられることがあります。
断耳や断尾などはそのわかりやすい例ではないでしょうか。
もちろん、もともとの出発点は猟や牧畜の場で、外敵と争った際にケガをしにくくすることだったのでしょう。
しかし、現代においてその必要はなく、それなのに依然としてなくならないのは、整形した姿のほうが可愛い、もしくはカッコイイからなんですよね。

さて、そんな犬の肉体改造は一見しただけではわからない部分にも及んでいるのをご存知でしょうか。
その一つが、「声帯切除」です。

犬の声帯切除をする理由とは

犬の声帯を切除する――。
目的は至ってシンプルであり、吠える声を物理的に消してしまおうとするものです。
もちろん、声帯になんらかの異常があり、病気治療を目的とした声帯切除が行われることもありますが、いまここで考えたいのは、そういった理由以外で声帯が切除されること。

そもそも、なぜ健康な犬の声帯を切除しようという発想になるのかといえば、そこはひとえに「無駄吠え」をなんとかしたいからなんですね。
犬の鳴き声は往々にして近所とのトラブルを発生させる大問題。
だからこそ、声が出る仕組みそのものを奪ってしまえば、吠え声によるトラブルは解決できる、という考え方が犬の声帯切除の根底にあります。

犬の声帯を切除すると本当に声が出なくなるのか?

犬が吠える声を消すために声帯を切除する。
では、声帯を切除しさえすれば、そこに音はなくなるのでしょうか。

実際のところ、犬は以前のようにワンワンとかギャンギャンといった声を出して鳴くことはできなくなるでしょう。
しかし、だからといって完全な無音にはなりません。
ガフガフ、ゼェゼェ、ハフハフ、ヒューヒューというように、空気がもれるような音を発するようになります。

以前、筆者の家の近所に声帯を切除されたとおぼしきアフガンハウンドが飼われていたのですが、その犬はいつも窓から顔を出し、外に向かってガフガフ、ハフハフと叫んでいました。
見るからにストレスがたまっていそうなそのアフガンハウンド。
確かに吠える声そのものは聞こえてきませんでしたが、奇妙に荒い息遣いと、空気がもれるような不自然な音はあまりにも異様で、それはそれで気になってしまったことをよく憶えています。

犬の声帯を切除することの是非

愛犬の無駄吠えをどうすることもできず、周囲とのトラブルを生じさせないための最終手段として声帯切除を選択した場合。
飼い主は頭を悩ませていた問題がなくなることにより、以前より愛犬を可愛がることができるようになるのかもしれません。
それはそれで一つの解決策ではあるのでしょう。

しかし、健康な犬の声帯を切除することは、人間にとってはそのようにメリットがある選択だとしても、犬にとってはどうなのでしょうか。
たとえば、避妊手術や去勢手術は、将来的な病気のリスクを減らすという意味から考えれば、犬にとってもメリットがある選択です。
しかし、声帯除去に関して言えば、病気のリスクを減らすという作用はありません。
まあ、無理矢理ひねりだすとしたら、声帯の病気にはならなくなるかもしれませんが・・・。
むしろ、切除手術が原因となって余計な病気にかかる可能性のほうがよほど高くなることを考えると、喉の病気にかからなくなる、という点をメリットとして挙げることはできません。

無駄吠えが原因で殺処分されるところを声帯切除によって回避できた――。
これを犬側のメリットとして考えるのは、あまりにも人間にとって都合がよすぎるのではないでしょうか。

犬の声帯を切除する方法は2つ

犬の吠え声を奪うために施す手術には、大きく分けて2つ方法があります。
ひとつは「口腔アプローチ法」。
これは、犬の口からハサミやレーザーを挿入し、声帯のヒダの一部をカットする手術法です。
大々的な外科手術に比べると費用が安く済む点はメリットですが、時間の経過とともに声帯が回復し、効果が長続きしない可能性があることはデメリットと言えるのではないでしょうか。

そしてもうひとつの手術法は「咽頭切開法」。
こちらは犬のノドを切開し、声帯を広範囲にわたって切り取ってしまいます。
費用はそれなりにかかりますが、その分効果が長続きするため、完璧に愛犬の声を消してしまいたい飼い主は、こちらの手術法による声帯切除を希望するようです。

犬の声帯切除が犬の命を脅かす可能性

声帯は小さくても体の一部です。
すなわち、必要だから存在するのであって、それを強制的に切除した場合、体になんらかの異変が起きても不思議ではありません。
声帯切除によって瘢痕組織(はんこんそしき/組織が欠損したことによって線維などが生じた状態)がノドに生じてしまい、それが原因で呼吸のトラブルを引き起こすことがあります。
呼吸にトラブルが生じれば酸欠による全身の不調を招くだけではなく、熱中症のリスクも高まることになるでしょう。
また、切除した傷口から感染症を引き起こすかもしれないし、傷そのものの痛みによって犬が長らく苦しむことになる可能性もあります。

「いらないから切り取って捨てちゃった」
犬の声帯切除には、そんな簡単には済まされないリスクが山積みであることを、犬を飼う者の責任として知っておくべきではないでしょうか。

犬の声帯切除を安易に選ぶ飼い主は犬と暮らす資格がない

犬はなぜ吠えるのか。
それは、何かを周囲に伝えようとしているからであり、決して無駄に吠えているわけではありません。
それになにより、愛犬の無駄吠えは、飼い主が犬との関係を正しく築けなかったことの結果です。

だからこそ、無駄吠えに頭を悩ませている飼い主は、安易に声帯切除をする前に、出来る限りの努力をする義務があるのではないでしょうか。
シツケを本気で見直し、生活の環境を整え、犬にとっての正しいリーダーとなれるように精一杯の努力をする。
それでもどうにもならないとき、初めて声帯切除について検討すべきなのです。

犬の声帯を切除することは、消しゴムで書き損じを消すのとはわけが違うのだということを、今一度心に留めてください。