子どもと犬は仲良し――という大人が作り上げた幻想
小さな子どもと犬が仲良くたわむれている動画。
動画サイトやテレビなどでよく見かけますよね。
見ているだけでほのぼのとするような動画の数々ですが、ああいった子どもと犬の仲良し動画を見て、犬と子どもは仲良しだと鵜呑みにしてしまうのはとても危険です。
なぜなら、犬の多くは実は子どもが苦手だからです。
環境によって犬と子どもの関係は変わるもの
たとえば、子どもが5人もいる大家族に飼われている犬だったら、おそらく子どもと上手に遊ぶことができるでしょう。
しかし、現代の日本において、子沢山の家庭はかなりの少数派。
犬が飼われている環境も、一人暮らしだったり夫婦二人だけの家庭だったりと、子どもがいないお家で暮らしている犬も少なくありません。
そんな犬達にとって、子どもは訳のわからない恐怖の対象でしかないんです。
私たち人間からすれば、人間の子どもの行動についてはある程度予測がついていますよね。
しかし、犬の視点からみたらどうでしょうか?
たとえば……
- 突然甲高い声をあげたと思ったら、いきなり走り回ったりして行動が意味不明。
- 無遠慮にシッポを触ろうとするし、力加減が乱暴。
- さっきまでビクビクと怖がっていたくせに、急に近づいてきて耳をつかまれた。
- 訳のわからないタイミングで「お手、お手」と大声で命令された。
こんな行動をされたら、生活環境の中に子どもがいない犬はさぞかし嫌だろうな、というのは想像に難くないですよね。
それなのに、飼い主を含めた大人達から子どもと仲良くすることを期待されても、それは酷というものではないでしょうか。
子どもから犬を守ること
犬が子どもを噛んだりしたら、大騒ぎになりますよね。
噛まないまでも、子どもが近づいたときに唸り声をあげただけでも、おそらくその犬は怒られてしまうことになるでしょう。
でも、それってなんだか理不尽だと思いませんか?
たしかに犬には牙があり、万が一子どもに噛みついたら大怪我をさせてしまう事態になりかねません。
咬傷事故により子どもの命が失われてしまった悲惨な事件もあります。
もちろんそういった事故は絶対に防がなければいけないことですし、それは飼い主や大人の義務であることは間違いありません。
しかし、では子どもが犬に怪我をさせることについてはどうなのでしょうか?
子どもが犬に怪我をさせた事例
今まで犬にかかわる仕事をしてきた中で、引き渡した犬が子どもに噛みついたという事故は幸いなことにありません。
しかし、お子さんが犬を危険な目にあわせたという事例は何件もあります。
パグの子犬
4才のお子さんがいるご家庭がパグの子犬を迎えたときのことです。
お子さんは大喜びで子犬を抱っこしていたのですが、突然喜びが爆発してしまったのか、奇声を発するとともに、なんと子犬を投げてしまったんです。
幸いなことに子犬はたまたまソファーの上に放り投げられたため、怪我をせずに済みましたが、もしもフローリングの床の上だったらと思うと冷や汗がたれました。
シェルティーの子犬
小学校4年生と1年生の姉妹がいるご家庭がシェルティーの子犬を迎えたときのことです。
お子さん二人は大喜びで奪い合うようにして子犬を抱っこしていました。
もちろん、子犬を落としてしまうと危ないので、床に座った状態で抱っこをするようにと指導をしました。
ところがお姉ちゃんのほうが子犬を抱っこしていたとき、待ちきれなくなった妹が、なかば無理矢理お姉ちゃんから子犬を奪いました。
そして抱いたままその場から逃げようと走り出してすぐにつまづいて転んでしまったのです。
体の向きを反転させようとしたからなのか、それとも無意識に子犬を守ろうとして体を捻ったのかはわかりませんが、お子さんの体が完全に子犬を下敷きにすることだけは免れました。
しかし、床面からおよそ60~70cmぐらいの高さから落下してしまったため、子犬はキャンキャン泣き叫び、しばらくはブルブルと震えがとまらなかったのです。
この子も幸いなことに骨折などはしていませんでしたが、一歩間違えばお子さんの体がのしかかってつぶされていたかもしれません。
子どもが苦手な犬に無理強いをするべきではない
自分の愛犬が子どもを苦手としているなら、ある日突然仲良くするように無理強いをするべきではありません。
何か事情があって子どもと仲良くさせなければいけなくなったのだとしたら、じっくりと時間をかけて距離を詰めていくべきなんです。
人間は往々にして自分達の都合で犬に様々な幻想を押しつけようとしますが、それはただの身勝手な振る舞いだということを、そろそろ自覚するべきではないでしょうか。
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