胸水、腹水、肺水腫の違いとは?
愛犬の体調が悪いので動物病院を受診したとします。
もしも獣医師に「ワンちゃんのお腹に水がたまっていますね」だとか「胸に水がたまっていますよ」などと診断されたら、飼い主はどれほど不安になるでしょうか。
医療関係者でもないかぎり、悪い想像ばかりが膨らんでしまい、心配でいてもたってもいられなくなりそうです。
そんな状態で獣医師から説明を受けても、気が動転していることもあって、なかなか理解が進まないということも。
また、獣医師にとっては当たり前のことすぎて説明を省いた部分に、実は飼い主が理解しやすくなるポイントがあったりするのがお約束です。
肺水腫と胸水の違い
お腹や胸に水がたまる、という症状。
耳にしたことがある人は、おそらくたくさんいるはずです。
では、この「水」とはいったいどこからきているのでしょうか。
ゴクゴクと飲んだお水が食道や胃腸に空いた穴からもれた・・・というわけではありません。
この水は、なんらかの原因で血流が滞ってしまい、血管がパンパンに膨れてしまった結果、血液中の液体成分が血管を通り抜けて染み出したものです。
たとえば小型犬などに非常に多くみられる心臓病の一つ、僧帽弁閉鎖不全症。
僧帽弁は心臓の左側にあるため、この部分に問題が生じると、そこに血流が流れ込む手前の位置、つまりは肺の血流が悪くなります。
その結果、肺の内部に血液中の成分が染み出して溜まった状態が「肺水腫」です。
肺の中に水が溜まってしまうわけですから、当然のことながら呼吸がしづらくなるため、早急な対処を必要としている状態です。
それに対し、「胸水」とは胸膜の炎症やガン、心臓や腎臓、肝臓などの疾病によって本来正常な状態でも少量たまっている肺の周囲の体液が、必要以上に溜まってしまった状態のことです。
この場合も溜まった水が肺を圧迫してしまうため、息苦しくなるのはもちろんのこと、胸膜の神経が圧迫されたことで痛みを生じやすくなります。
要するに、肺の中に水が溜まるのが「肺水腫」であり、肺の外側に水が溜まるのが「胸水」というわけですね。
腹水が溜まる仕組み
腹水が溜まる場合、その原因は心臓の右側にあることが多いでしょうか。
要するに、肺や心臓の左側ルートを血流が巡るよりもっと手前の位置で、血流が滞ってしまったときに起きやすい症状なんですね。
胸水などと同様に、腹水もまた臓器の隙間に水が溜まっていくわけですが、腹水は胸水に比べると液体が溜まる容積が大きいため、胸水より緊急性は低くなります。
胸水の場合は呼吸が関係してくることから待ったなしの状態ですが、腹水の場合は多少猶予があるんですね。
とはいえ、溜まった水によって臓器が圧迫されることに変わりはありません。
いずれにしろ、腹水が溜まった場合にもなんらかの処置が必要になるわけです。
くれぐれも、腹水なら放っておいていいというわけではありません。
水が溜まった場合の処置
肺水腫、胸水、腹水――。
いずれにしろ、そのまま放置してよい状態ではないため、なんらかの処置が必要になります。
基本的には投薬治療、そして必要に応じて外科的な処置をとることになるでしょうか。
- 血管を拡張することにより血流を改善させる。→血管拡張剤の服用
- 血液の量自体を減らして血流を改善させる。→利尿剤の服用
血管拡張剤はなんとなくわかるとして、なぜ利尿剤を服用させるのでしょうか。
それは、尿として体内の水分を排出することで、強制的に血液中の水分を減らしてしまうからです。
これに対し、外科的な処置はまさしく物理的に水を抜いてしまうこと。
胸水なら胸に、腹水ならお腹に針をさして溜まっている水を吸い出してしまうんですね。
これにより肺や臓器などへの圧迫が解消されるため、症状は劇的に改善します。
ただし、血流が滞る根本的な原因を改善しているわけではありません。
根本的な原因を解決しないかぎり、いずれまた胸水や腹水がたまってしまう可能性がかなり高い状態なのです。
きちんと対処することで生活の質を上げることは可能
肺水腫や胸水、腹水といった症状で苦しむ愛犬を見ていると、飼い主はどうしても悲観的になりがちです。
しかし、投薬治療と外科的な処置を適切に組み合わせていくことで、犬の体調を今より悪化させないように維持する可能性は充分に見込めるんですよね。
なんにせよ、早期に発見できればできるほど、悪化を食い止めることができるのです。
愛犬の様子がいつもと違うと感じたら、迷わずかかりつけの獣医師に相談しましょう。
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