犬の肥満細胞腫について

肥満細胞腫(ひまんさいぼうしゅ)
聞いたことのない人は、肥満が原因で発症する病気、と勘違いするかもしれませんが、全く違います。
いわゆる体重オーバーの肥満とは関係がありません

そんな肥満細胞腫ですが、犬を飼っている人であれば、もしかしたら一度ぐらいは耳にしたことがあるのではないでしょうか。
そして、一度でも愛犬が肥満細胞腫と診断された経験を持つ飼い主さんにとっては――。
この病名を聞いただけで、きっと背筋が凍っているはずです。
なぜなら、肥満細胞腫はがんの一種だからです。

犬の肥満細胞腫とは?

肥満細胞とは、私たち人間や犬を含め、哺乳類の粘膜下組織や結合組織などに存在している造血幹細胞に由来する細胞のことをいいます。
簡単にまとめてしまうなら、肥満細胞とは免疫細胞の一種
つまりは外から体内に侵入してくる異物に対し、炎症反応やアレルギー反応を起こす役割を担った細胞のことです。

なぜ免疫細胞の一種でありながら「肥満」という名前がついているのかといえば、細胞の膨れた様子が肥満を思い起こさせるから。
実に単純な理由で命名されただけのことであり、「太る」という意味での肥満に関連した細胞ではありません。

そんな肥満細胞ですが、名前は若干ややこしくても、その役割はまさしく免疫細胞。
花粉症で鼻水が止まらなくなったり、目の痒みで涙の量が多くなるのは、この肥満細胞から放出されたヒスタミンによって異物を排除しようとしているからなんですね。

そして肥満細胞腫とは、その免疫に関わる肥満細胞が腫瘍化してしまう病気のことです。
肥満細胞腫は皮膚にできることが多く、度合に差はありますが、基本的には悪性腫瘍
そして犬の皮膚がんとしては、肥満細胞腫がおよそ20%程度を占めています。

とはいえ、皮膚にのみ発生するわけではありません
皮下や粘膜、筋肉、内臓などにできることもあり、どの部位にできたにしろ、ほんの少しも油断してはいけない悪性腫瘍――それが肥満細胞腫です。

犬の肥満細胞腫の症状

肥満細胞腫は皮膚にできることが多いのですが、その形態や症状はさまざまで、一律ではありません
イボのようなもの、しこりのようなもの、脂肪の塊のようなもの、虫刺されのようなもの、皮膚炎のようなもの……といった具合に、見た目だけでは判断しにくいのです。
また、皮下の肥満細胞腫は良性の脂肪腫と間違われることもあり、とても厄介。
さらには犬という動物の体はほとんどが被毛に覆われているため、なおのこと見つけにくいのです。

だからこそ、次のような症状に心当たりがある場合は要注意。

  • 皮膚にしこり、もしくはしこりのようなものができていて、出血している。
  • 皮膚に虫刺されのようなあとがあり、赤くなって腫れている。
  • 皮膚が赤くなって荒れている部分がある。
  • 被毛の一部が脱毛している。
  • おできのようなものがあるのに、触っても痛がらない。

また、肥満細胞腫から放出された生理化学物質の影響で、次のような症状がみられることもあります。

  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 嘔吐や下痢
  • 胃潰瘍
  • 消化管からの出血による黒色便
  • 血が止まりにくい
  • 呼吸の異常(肺水腫など)

そして悪性の度合が高いほど、転移を起こす可能性も高くなります。
リンパ節や肝臓、脾臓、骨髄などに転移しやすいという、非情に厄介な腫瘍です。

肥満細胞腫の悪性度

肥満細胞腫は、悪性の度合によって3つのグレードに分かれています。

グレード1

悪性度/低い
転移の可能性/比較的低い
治療の内容/基本的には手術による切除
再発の可能性/比較的低い
予後/適切な治療により完治が見込める

グレード2

悪性度/高い
転移の可能性/ありえる
治療の内容/手術による切除、状況により抗がん剤治療、放射線治療
再発の可能性/高い
予後/完治が見込める場合もあるが、適切に治療をしても再発、転移の可能性あり

グレード3

悪性度/非情に高い
転移の可能性/非情にありえる
治療の内容/手術による切除+抗がん剤治療、状況によって放射線治療
再発の可能性/非情に高い
予後/適切に治療をしても完治は難しい

肥満細胞腫の原因

肥満細胞腫の原因は、残念ながらはっきりとはわかっていません
平均的な発症年齢は9才前後のため、シニア犬に多いともいわれていますが、若い年齢の犬も発症することがあります。

犬種による素因も指摘されていて、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバーや、短頭犬種(パグ、ボクサー、ブルドッグなど)は他の犬種より発症しやすいと言われています。
ただし、上記の犬種以外が発症しないわけではありません。
すべての犬種はもちろんのこと、肥満細胞腫は雑種であろうと発症する可能性のある病気です。

肥満細胞腫の予防

肥満細胞腫は原因がわからないため、確実な予防法はありません。
つまりは、早期に発見して早期に治療を開始することこそが、愛犬を肥満細胞腫から守る一番の方法なのです。

そのためには、常に愛犬と触れ合うことが大切。
犬の体を日ごろからくまなく触っていると、「あれ?」と思う瞬間はあるものです。

そして前述した通り、肥満細胞腫には特定の形がありません。
「これ、何だろう?」と思うものが犬の体にできていたら、素人判断はせずに、まずはかかりつけの獣医師に診てもらいましょう

肥満細胞腫ではないかと不安になって動物病院に駆け込んだら、ただの虫刺されだった――。
もしもそんなオチがついたとしても、飼い主が大げさに騒いでしまったという、マヌケな事態などではありません。
後々に笑い話になるぐらいの慎重さが、早期発見につながるのです。