それ、本当に食物アレルギーですか?
「うちの犬、食物アレルギーがあるからドッグフードはアレルゲンフリーでないとダメなんです」
……と、ある飼い主さんから相談されたことがあります。
そこでアレルゲンが何かをたずねてみると「たぶん、チキンかビーフあたりがダメなんだと思います」とのこと。
よくよく聞いてみると、飼っているワンちゃんが体をやたらと痒がり、皮膚が赤くなっていたので「食物アレルギー」に違いないと思ったのだとか。
食物アレルギー、食物以外のアレルギー、アトピー性皮膚炎
前述の飼い主さんは、食物アレルギーかもしれないと考えて、ドッグフードをラムとライスをベースにしたタイプに変更したそうです。
ラム&ライスに変更したら症状は改善されましたか?とたずねたところ、「以前よりはマシになったような気もしますが、まだ時々痒がっていますね」との答えが。
うーん……。
今の段階で、この飼い主さんのワンちゃんは食物アレルギーではない、と断言することはできません。
しかし、食物アレルギーではない可能性も考えたほうがいい、と言うことはできます。
そもそも、体を痒がって皮膚が赤くなるという症状は、確かに食物アレルギーにもみられる代表的な症状ですが、食物以外のアレルギー、たとえばノミとかダニ、またはプラスチックなどといった別のアレルギーであっても同じように体を痒がって皮膚が赤くなります。
さらには、アトピー性皮膚炎の場合も同様です。
つまり、体を痒がって皮膚が赤くなったからといって、アレルゲンも突き止めないままにドッグフードを変更してみたところで、症状が改善される可能性は実はあまり高くありません。
むしろ、食物とは別のところにアレルゲンがある場合、それを取り除かない限り症状はおさまらないままですし、仮に食物アレルギーだとしても、アレルゲンが完全に取り除かれていなければ、同じく症状が改善されることはないのです。
食物アレルギーとその他のアレルギーやアトピーとの違い
体を痒がって皮膚が赤くなる――。
これは食物アレルギー、食物以外のアレルギー、アトピー性皮膚炎のすべてに共通している症状。
しかし、まったく同じというわけではありません。
食物以外のアレルギーやアトピー性皮膚炎の場合、比較的体の一部を痒がることが多いのです。
そして、治療に用いられるステロイドの効きがよく、きちんと治療することで症状はかなり改善させることができます。
ところが食物アレルギーの場合は、全身に症状が出てしまいがち。
というのも、食物アレルギーの場合はアレルゲンが消化の過程で腸から吸収されて全身に運ばれてしまうからなんですね。
そして、食物アレルギーの場合は体の内側――すなわち胃や腸にも症状が出ることがほとんど。
結果としてゲリや嘔吐を併発するのです。
しかも、食物以外のアレルギーやアトピー性皮膚炎より痒みなどの症状が強く表れやすいのに、ステロイドがあまり効かないという非常に厄介な面も食物アレルギーの特徴といえるのではないでしょうか。
つまり、本当に食物アレルギーだとしたら、一刻も早くアレルゲンをきちんと突き止めて、そのアレルゲンが使われていないフードに変えてあげないことには、いつまでたっても症状を改善することはできません。
アレルゲンを突き止めるまでのプロセス
食物アレルギーであると断定し、アレルゲンを突き止めるまでには、きちんと踏まなければいけないプロセスがあります。
まず、症状の原因に感染症が関与していないか、検査をします。
ウィルスやダニ・ノミなどの寄生虫、マラセチアのような真菌類などに感染していないかを検査して、もしも陽性という結果が出た場合は、まずはアトピー性皮膚炎の可能性が高いと判断し、その治療が開始されます。
しかし、この治療で症状があまり改善されなかった場合、または陰性だった場合は、食物アレルギーの可能性が濃厚になりました。
そこで、食物アレルギーを引き起こすアレルゲンの特定を始めることになります。
まずは除去食という、アレルゲンとなるたんぱく質をすべて排除したドッグフードを6~8週間食べさせて、それ以外の食べ物は一切与えません。
ここで症状が改善されたら食物アレルギーである疑いが濃厚となり、症状が出ていた頃に食べていたものの中にアレルゲンがあると判断されます。
そこで、あえて1週間ほど以前の食事に戻してアレルゲンに反応するかを再度テスト。
これを食物負荷試験といいます。
ここで症状がぶりかえしたら食物アレルギーと断定され、いよいよアレルゲンの特定が始まるんですね。
アレルゲンとなるたんぱく質は、なにもチキンやビーフなどの動物性たんぱく質だけとは限りません。
穀物や豆類、野菜などにもたんぱく質は含まれていますので、症状が出たときに食べていたドッグフードやおやつなどに使われていた、たんぱく質を含む素材を全種類試していくことになります。
除去食にたんぱく質を含む食材を1種類ずつ加えて食べさせて、一つ一つテストしかなければなりません。
もちろんアレルゲンは一つとは限りませんから、何かに反応したからといってそこで終わりではなく、最後までテストしきることが大切です。
素人判断するより、きちんとした検査を
こんなふうに、食物アレルギーの原因となるアレルゲンを突き止めるためには、きちんと手順をふみ、時間をかけなければ正確な結果を得ることはできません。
なんとなくアレルゲンフリーのドッグフードに変更すれば万事OK、とはいかないのです。
愛犬の食物アレルギーを疑ったら、まずはかかりつけの獣医師に相談することから始めましょう。
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