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犬の巨大食道症

この記事の目次

犬の巨大食道症――。

たいていの人にとっては、あまり耳馴染みのない病名ではないでしょうか。
言葉の響きのせいなのか、なんだかあまり深刻そうな感じがしません。
さらには、大型犬のみに発症しそうな雰囲気があるような、ないような。

実際のところ、犬の巨大食道症は超小型犬から超大型犬まで、すべての犬種が発症する可能性のある病気。
しかも、発症の原因が不明なことがほとんどであり、さらには完治が困難という、とても厄介な病気です。

犬の巨大食道症とは

犬の「巨大食道症」は、別名を「食道拡張症」ともいいます。
食道は本来、収縮して蠕動(ぜんどう/うごめくことで物を送る動き)することで口から入って来た食べ物を胃に送る役目を担っています。

ところがなんらかの原因によって食道の筋肉が収縮、緊張を保つといった正常な動きができなくなることがあるんですね。
そうなると、食道は全体的に動きが鈍くなり、弛緩したままどんどん拡張してしまうことに。
この状態を巨大食道症といいます。

犬は言わずと知れた四本足の生き物。
「口」→「食道」→「胃」のルートが地面とほぼ並行の位置関係にあります。
つまり、食道の蠕動運動が鈍くなって食べ物を胃の中に送り込むことができなくなると、食べ物が食道の途中にたまりやすくなってしまうんですね。
そうなれば食道は食べ物が詰まった位置で垂れ下がっていくことになります。
こんな状態が体にいいわけがありません。

犬の巨大食道症の症状とは

食道の正しい動きに問題が生じているため、口から入ったもの――水や食べ物を吐き出してしまうことになります。
巨大食道症の初期症状としては、食道の炎症や食欲不振、よだれ、吐き出しなどが挙げられますが、拡張の度合いが軽いうちは、これといった症状がみられないことも。

え、それだけ?なんだ、あまりたいした事なさそう――などとあなどってはいけません。
食べたり飲んだりしたものが胃に到達できず、なんでもかんでも吐き出してしまうことになりますから、犬の体は充分に栄養が摂取できなくなるばかりか、脱水を引き起こす可能性まであるんですね。

さらには吐き出した食べ物や水分が気管から鼻や肺に入ってしまうこともあります。
鼻に入れば「鼻炎」を引き起こしやすくなり、肺に入れば「肺炎」の原因になることも。
その結果、咳や発熱、呼吸困難などの重篤な症状を引き起こし、最悪の場合は死に至ることもあるのです。

犬の巨大食道症の原因とは

犬の巨大食道症は先天性と後天性があり、先天性の場合は食道に分布している神経の欠損、もしくは異常が原因ではないかと推測されています。
しかし、現時点においては残念ながらまだはっきりとは解明されていません。

後天性の場合は原因となっている疾患を特定することにより、食道の機能を改善させられる可能性があります。
とは言え、こちらも一筋縄ではいきません。
単純な食道炎ばかりが原因とは限らず、重症筋無力症や限局性筋無力症といった神経筋機能障害と、それらに関連する副腎皮質機能低下症や甲状腺機能低下症などの可能性もあるからです。

いずれにしろ、血液検査、ホルモン測定、筋電図といった精密検査をすることにより、何が巨大食道症を引き起こした原因であるのかを突き止める必要があります。
とは言え、後天性であっても原因が特定できない特発性と診断されることも。
先天性にしろ後天性にしろ、厄介なことに変わりはありません。

愛犬が巨大食道症と診断されたら

巨大食道症の原因が先天性、後天性、そして特発性のいずれであっても、食事療法がとられることになります。
なぜなら、これ以上の食道拡張や誤嚥(食べ物や水分、唾液などが誤って食道ではなく気道に入ってしまうこと)を防止しなければいけないからです。

というわけで、巨大食道症を発症した犬に必要な食事療法は、

  • 体を縦に起こした状態で食事を摂取させる。
  • 1回の食事は少量にして、1日分を複数回に分けて摂取させる。
  • スムーズに胃に流れ込むよう、食事は薄い粥状にする。

要するに、チンチンの状態――前足を胸の前に上げ、体を起こした体勢で食べさせることにより、重力を利用して口から入れた食べ物を胃に到達させるわけです。
だからこそ、食べさせるものは流れやすいスープ状であることが望ましい、というわけですね。

どうやれば愛犬の体を起こした状態で食事をさせられる?

愛犬が巨大食道症と診断されたら、チンチンさせた状態で食事をさせる期間は短いものではないことを、飼い主は覚悟しなければなりません。
つまり、飼い主が食事のたびに犬の体を垂直に起こして口元に食事を運んでいく手間をかけるより、自動的にそのような体勢がとれる状態を作る必要があるのです。

食べるときだけなら、私が体を縦に起こしてあげるから大丈夫!と考える飼い主さんもいらっしゃることでしょう。
しかし、実際には食べている間だけではなく、食後15~30分程度は立たせておかなければならないのです。
なぜなら体を起こした体勢で一定時間は維持しておかないと、食べたものを吐き出してしまうからなんですね。

というわけで、どのような方法で愛犬の体を起こしたまま維持させるのか。
そこをしっかり考えることが、犬と飼い主の双方にとって、とても重要です。

たとえばチワワのような超小型犬の場合。
人間の赤ちゃんに使う抱っこひもを利用することにより、体を縦の状態にしたまま維持する方法があります。

ちょっと体重が重すぎるサイズ(小型犬から小さめの中型犬)あたりになると、抱っこ紐では飼い主が体力的に厳しくなってくるかもしれません。
そうなると、ダンボールなどを利用して立ったままの状態を維持できる箱を工作するのが一番です。
この場合は、犬の胴体に合わせて箱の中にあまり隙間を作らないことがポイントとなりますので、前足を出した状態で箱が立てられるよう、当初はサイズ合わせに四苦八苦するしかないんですよね。

そして大型犬。
さすがにダンボール箱では強度に不安があるため、こうなったらもう日曜大工で作るしかありません。
板を使ってきちんと強度のあるものが完成すれば、その後の給餌はかなり楽になるはずです。
ちなみに、こういった目的で作られた補助イスのことを「ベイリーチェア」といい、オーダーメイドで作ってくれる業者さんもいます。

早期発見早期治療に勝るものなし!

巨大食道症は治療だけではなく、予防も困難な病気です。
しかし、早期に発見して早期に治療を開始するのと、手遅れになってから治療するのでは大違い!
だからこそ、普段から愛犬の状態にはきちんと目を向けてあげましょう。

犬はよく吐く生き物だから――。
この思い込みが発見を遅らせてしまうかもしれません。
なにかおかしいと感じたら、とにかく四の五の考えずに、まずはかかりつけの獣医師に相談しましょう。
日頃からの観察が、早期発見につながります。