メス犬の出産適齢期について
「うちの犬は8才になるメスですが、これまでに出産の経験がありません。せっかくメスとして生まれたので一度ぐらいは出産を経験させてあげたいのですが、年齢的に子犬が生めるでしょうか? 病気一つしたことない元気な犬です」
――こんな質問をされたことがあります。
この場合、生めるか、生めないかが問題ではないんですよね。
純血種であろうが雑種であろうが、8才で初産などさせるべきではありません。
そもそも、子宮蓄膿症や乳腺腫瘍などの可能性を考えたら、もっと早い時期に避妊手術をしておくべきです。
では、いったい何才から何才ぐらいまでが犬の出産適齢期なのでしょうか。
犬が発情を迎える年齢にはかなりの個体差があります
メス犬が初めての発情を迎えるタイミングには、かなりの個体差があります。
一般的に生後6ヶ月から1年ぐらいの間に最初の発情を迎えることが多いですが、これはあくまでも単なる目安でしかありません。
日本犬などは思ったより早く発情期を迎えてしまう犬もいて、これまでに見てきた中で最も早く発情期を迎えた例としては、生後4ヶ月という犬がいました。
あまりにも早いので発情だとは思わず、出血に驚いて動物病院で検査をしてもらったところ、発情していると確認したときは正直驚きました。
また、その反対に生後22ヶ月を過ぎてようやく最初の発情を迎えた犬もいました。
このようにかなり個体差のある発情期ですが、おおむね小型犬のほうが最初の発情を迎えるタイミングが早く、大型犬は遅くなることが多いでしょうか。
参考までに、生後4ヶ月で発情を迎えた犬は柴犬で、生後22ヶ月を過ぎてようやく最初の発情を迎えた犬はボルゾイです。
ただし、すべての柴犬の発情が早いわけではありませんし、ボルゾイの発情が遅いわけでもありません。
発情の回数に関しては、年に1~2回程度が多いでしょうか。
とは言え、発情の頻度にも個体差があり、年に3回ほど発情がくる犬がいる一方で、1年から1年半程度に1回ぐらいしか発情がこないケースも。
また、春と秋に発情がくることが多いといわれる犬の発情ですが、近年は季節に関係なく発情期を迎える犬が少なくありません。
犬の健康を考えるなら早すぎる妊娠も遅すぎる妊娠もダメ!
発情期を迎えるタイミングにはかなりの個体差があるのは前述したとおり。
そして、発情期を迎えた以上、理屈としては犬の体が妊娠可能な状態になっているわけです。
しかし、だからといって初めての発情を迎えて即妊娠、という流れはおすすめできません。
なぜなら、初めての発情を迎えた時点では、まだ犬の体が未成熟なことが多いからです。
体が完全に成犬になりきれていない状態で妊娠すれば、栄養状態のバランスが変化して、母体の成長に悪影響を与える可能性があります。
さらには、初めての発情を迎えた時点ではまだ精神的にも未熟であり、母犬になるには早すぎて、良い母犬になれない可能性も高くなるからです。
このあたりは、人間の場合も同じなので、なんとなくイメージできるのではないでしょうか。
こういったことを踏まえた考えた場合、最初の発情での妊娠は絶対におすすめできません。
どうしても最速でということなら、せめて2回目の発情まで待つべきです。
一般的には1才半から6歳ぐらいまでが出産適齢期と考えられていますが、メス犬の健全な成長を考慮した場合、初めての出産は2才以降まで待つべきではないでしょうか。
そして初産の場合は4才ぐらいまでが限界であり、それより年を重ねてからの初産は犬の体と精神状態にかなりのストレスをかける可能性があります。
出産経験が2回目以降の出産であれば、体の状態にもよりますが、おおむね6才ぐらいまでは問題なく出産できるのではないでしょうか。
それ以降は高齢出産の域に突入していくため、よほどの事情がない限りは出産をさせるべきではないと考えます。
出産適齢期に生ませ続けたことで心疾患が蔓延したキャバリア
日本国内で生まれるキャバリア・キングチャールズ・スパニエルは、6才を迎えるまでに90%の犬が心臓病を発症してしまう現状があることで知られています。
これは、日本国内でのブリーディングの、かなり早い段階で先天的に心疾患のある犬が使われたことに端を発しています。
つまり、本気で健全なブリーディングを目指そうと思ったら、本来は先天的な心疾患がないことを確認できるまで、子犬を生ませるべきではなかったんですよね。
ところが6才まで待っていたら、安全に子犬を生ませられる時期が過ぎてしまうことに。
そもそも、商売としてブリーディングをするうえで、6才まで待つはずもありません。
結果、先天的な心疾患の有無を確認する前に子犬を生ませるブリーディングが繰り返されたことで、日本国内でブリーディングされたキャバリアのほとんどが心疾患の因子を持つに至ってしまったのは、とても悲しいことです。
避妊手術は出産適齢期を過ぎてからではなく、適齢期の前が望ましい
「うちの子に子犬を生ませたいけれど、なかなかそうもいかないかもしれません。だから、7才を過ぎるまで子犬を生ませる機会がなかったら、そのときは避妊手術を受けさせます」
こんな考え方をする飼い主さんもいます。
はっきり申し上げますが、その程度の感覚でいるなら愛犬に子犬を生ませる必要はありません。
子犬をどうこう考えるより、愛犬の健康そのものを重視するべきです。
子宮や乳腺など、メス犬特有の病気を防ぐためには、出産適齢期より前に避妊手術をすることがベスト。
7才まで無駄に発情を繰り返させてしまえば、それだけ婦人科系の病気にかかるリスクが高まっていくからです。
たしかに、子犬は可愛いですよね。
しかしそのために母犬となる愛犬の命を危険にさらすなんて、無意味ではないでしょうか。
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