犬を海外に連れていく手続きはとても大変
つい最近、こんなキャッチコピーを見かけました。
愛犬と一緒に海外を旅行しませんか?
手続きさえしてしまえば愛犬と一緒に海外を旅することが可能。犬に対して寛容な国では、日本国内より愛犬と楽しく過ごせますよ!
……まあ、言っていること自体はウソではないと思いますが、犬を海外に連れていくという行為は、そんなに安易なことではありません。
なぜなら愛犬を海外に連れていく――それすなわち「生体の輸出」であり、日本に帰国させることは「生体の輸入」にあたるからです。
生き物を輸出入させるわけですから、ものすごく綿密な手続きが必要なのは言うまでもありませんよね。手続きを怠ればいざ帰国しようにも、犬だけ入国できない可能性も。その結果、数ヶ月間も愛犬と離れ離れになることもありえるのです。
どこの国へ渡航するにしても必要となる準備
思い立ったら即日にも愛犬と海外渡航!――とはいきません。まずは準備しておかなければいけない事柄が山ほどあるのです。
- マイクロチップの挿入(ISO規格11784及び11785に準拠したFDX-Bという規格)と獣医師によるマイクロチップ挿入の装着証明書
- 狂犬病予防ワクチン2回分の接種証明書(生後91日以降で1回目の接種から30日~1年以内に2回目を接種している必要あり)
- 指定検査機関で狂犬病の抗体価を採血によって確認し、狂犬病抗体価検査の測定結果通知書を取得
- 獣医師による健康診断書の取得
- 渡航先の国が条件としている伝染病予防ワクチンの接種、ノミ・ダニの予防、寄生虫の駆除と予防、さらにはそれらを実施した証明書の取得
上記以外にも渡航先の国によって提出を義務付けられている書類がある場合は、すべてを揃える必要があります。
また、動物を入国させる条件は不定期に変更される可能性があるため、古い情報を鵜呑みにすると不備につながるおそれも。
必ず最新の情報を手に入れたうえで準備を進める必要があります。これらをすべて用意したからといって手続きが終わったわけではありません。
むしろ、これらをもとに愛犬を出国させ、滞在先では平穏に過ごし、無事に帰国させるための準備をすることになるのです。
日本を出国するための条件と手続き
私たち人間にはパスポートがありますが、犬にはありません。その代わりに動物検疫の証明書が必要になりますので、交付を受ける必要があります。
- 輸出検疫証明書の交付手続き
出発予定の空港(もしくは港)を管轄している動物検疫所がどこにあるのかを、まずは確認しましょう。畜産物の輸出入を管轄する空港や港であっても、犬や猫といったペットの輸出入は管轄していない場合もあります。
- ペットに関しては以下の空港、港が管轄
- 新千歳空港、苫小牧港、成田国際空港、東京国際空港、京浜港、中部国際空港、名古屋港、関西国際空港、阪神港(兵庫)、阪神港(大阪)、関門港、北九州空港、博多港、福岡空港、鹿児島空港、鹿児島港、那覇空港、那覇港じ
愛犬を日本から出国させたい予定日の、少なくとも7日前までに管轄の動物検疫所に連絡して輸出検査申請書を提出。
もしくは輸出入・港湾関連情報処理システム(NACCS)(URL:https://www.naccs.jp/)というネット上で利用できるシステムにて、申請手続きをおこなっておく必要があります。
動物検疫所では狂犬病とレプトスピラ症の検査を受け、輸出検査終了後に問題がなければ英文で書かれた輸出検疫証明書が発行されます。ここでようやく、愛犬は日本を出国することが可能な状態になりました。
愛犬を渡航先に入国させるための条件は国によって異なる
日本を無事に出国できたからといって、渡航先に無条件で入国できるとは限りません。狂犬病を撲滅できている国かどうかなど、ペットの入国(輸入)に関しては、各国で条件が異なるからです。
渡航先の大使館や動物検疫機関で、事前にきちんと条件を確認しておきましょう。とはいえ、ありがたいことに日本は世界的にみても数少ない狂犬病を撲滅できている清浄国。撲滅できていない国と比べれば手続きはかなり少なくて済みますが、だからといってフリーパスというわけにはいきません。
どの国も国外から病気やウィルスが侵入することを防ぐために、生体の輸出入にはかなり神経をとがらせているからです。
ちなみにオーストラリアやEU加盟国においては、動物検疫所が発行する輸出検疫証明書に獣医師の署名が必要。
つまり、獣医師家畜防疫官による検査でなければペットの入国が認められないため、こういった国に愛犬を入国させる場合には、念のため事前に動物検疫所で再確認しておくことをおすすめします。
渡航先に入国させる段になってから「この防疫官のサインでは認められない」などということになったらシャレにもなりません。
滞在先で帰国に向けて準備すること
日本を出国する際に様々な手続きが必要だったように、日本に帰国する際には滞在先の国で同じように出国に際しての手続きが必要になります。
それは同時に日本に帰国(入国)するために必要な事項ともなりますので、先々を考えてもらさず準備しなければなりません。ただし、日本に帰国する際には、「どこの国から帰ってくるのか」によって手続きには違いが生じます。
- 狂犬病清浄国からの帰国
- 2020年現在、狂犬病の清浄国と指定されているのは以下の6地域のみ。
アイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアム
上記の6地域から愛犬を帰国させる手続きとしては
- (1)輸入予定日(日本への帰国予定日)の40日前までに輸入に関する事前の届出
- (2)マイクロチップによる個体識別
- (3)在住に関する規定に合致しているかの確認
- (4)輸出国(滞在先の国)の政府機関が発行した必要事項がすべて記載されている健康証明書の取得
上記6地域以外から愛犬を帰国させる手続きは、さらに煩雑になるので注意してください。
上記の1~4に加えて、下記が必要です。
- (5)狂犬病予防ワクチンの有効免疫期間がきれる前に追加接種(不活化ワクチン)と証明書の取得
- (6)日本で狂犬病の抗体価を検査するために採血した日より2年を超えて帰国する場合は、滞在国の指定検査施設において採血による抗体価の検査と証明書の取得
- (7)輸入(帰国)検査を実施し、問題がなければ12時間以内の係留。書類の不備もしくはなんらかの問題が生じた場合は最長180日間の入国待機
手続きに不備があると愛犬は家に帰れない
さて、さらりと記載しましたが、上記7番目の項目にはとんでもないことが書いてありますよね。もしもなんらかの不備があった場合、最長で180日間、つまり半年も愛犬が検疫所で待機させられてしまう可能性があるのです。
要するに、待機させられている期間中は家に連れて帰ることができないんですね。そんな事態に陥れば、愛犬にとってどれほどのストレスになることでしょうか。
万が一その間に死亡したとしても、それらはすべて飼い主の責任。検疫所を責めることはできません。
だからこそ、愛犬を連れて海外に行く場合は、滞在中はもちろんのこと、出国前からすでに帰国するときのことを想定して準備しておかなければならないのです。
短期間の海外旅行・駐在に愛犬を連れていくメリットはない
さて、愛犬を海外に連れていく手続きについてみていくと、短期間の海外旅行や駐在に愛犬を同行させるメリットはほとんどない、という事実が浮かび上がってきます。
現在、海外への渡航手段として主流は飛行機。飛行機の中で、愛犬が手荷物として飼い主と一緒に搭乗できる確率はかなり低いのが、2021年現在の状況です。
外国のエアラインでは一部そういったサービスを実施しているところもあるようですが、今のところはかなりの少数派でしかありません。もちろん小型犬限定です。
ほとんどは貨物室に搭載されることになり、飼い主と離れ離れになるのはもちろんのこと、フライト中の世話はありません。水やりもペットシーツの交換もないのです。
それだけの負担をかけて渡航し、さらに渡航先では慣れない風土で暮らしが始まります。
そういった多大なる負担を覚悟してでも連れていくとなると、やはりその対象は長期滞在と考えるべきではないでしょうか。
愛犬にとって飼い主と一緒にいることはとても重要なことですが、時と場合によることだけは間違いありません。
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