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フィラリア予防薬を飲ませないその訳は?

この記事の目次

秋田犬の展覧会で、素晴らしい成績を残す名犬を
たくさん作出してきた繁殖者と話をしていた時のことです。

その犬舎には常時5~6頭の成犬がいて、
幼犬から若犬、壮犬など様々な部門に出陳しては、
素晴らしい成績をおさめていました。

繁殖者は高齢でしたが実に知識も深く、
皮膚病の治療やアレルギー体質の犬の食事についてなどは、
生半可な獣医では太刀打ちできないのではないかと思うほど、
独自の方法で見事に治療してしまいます。


これぞまさに経験に裏打ちされた業(わざ)だと感心せずにはいられませんでした。

すばらしい犬舎の管理

犬舎には堅牢な檻がきちんと作られていて、
1頭ずつ充分なスペースが確保されていました。

また、妊娠犬のために作られた特別仕様のスペースには
ヒーターが備えつけられていて、実に理想的な設計がされていたのです。

もちろん衛生管理もきちんとなされ、獣臭などしたことがありません。

高床になった檻は排水溝を備えたコンクリートの床の上にあるため、
水洗いと消毒も行き届いていますし、犬舎には日除けはもちろんのこと、
風通しが確保できる場所に建てられていたので、
夏の暑い時期でもかなりの涼を確保できるようになっていました。

そんな完璧とも言える管理をしている繁殖者さんですから、
伝染病予防ワクチンなどもきちんと接種していました。

そういったことをおざなりにする高齢の繁殖者は珍しくなかったため、
そういった予防医学についても理解があるのだと思っていました。
――が。

ある時、フィラリアの予防薬についての話しになった時、
「うちではフィラリアの予防はしない。蚊取り線香はたいてやるが、
それぐらいしかしない」
と言われて驚いたのです。

これほどまでに犬の住環境を徹底管理しているというのに、
なぜフィラリアの予防をしないのでしょうか?

犬という存在の捉え方

答えはいたってシンプルなものでした。
「展覧会に出場できなくなるほどの年齢まで生きなくてもいい」
思わず耳を疑ってしまいましたが、繁殖者さんにしてみれば
悪い意味で言ったわけではないのです。

要するに、展覧会に犬を出陳し続けようと思ったら、
犬はある程度のサイクルで入れ代わらなければなりません。


おおよそ6歳ぐらいまでにすべてのタイトルを獲得したら、
あとはあまり長生きをする必要がないのだ、
ということでした。

まさに、「犬」という存在に対しての古い感覚
そのまま残っているのだと実感した瞬間でもありました。

現代において、犬は家族の一員であると考える人が増えています。
しかし、かつての日本はそうではなかったのです。

この繁殖者さんは、決して犬を粗雑に扱っているわけではありませんでした。
しかし、犬という存在の捉え方が現代における愛犬家とは決定的に違うのです。
それを「そんな扱いでは犬が可哀想」などと非難することは、
果たして正しいことなのでしょうか。

愛犬家を名乗っておきながら、
本当の意味で犬を大切にしていない飼い主なんて珍しくありません。

しかし、この繁殖者は少なくともフィラリア予防薬を飲ませない以外は、
それはもう犬を大切にしていました。

「犬」という存在が人間にとっていったい何であるのか?
日本人における「犬」とはどんな存在なのか?
その変遷を生で見させてもらったような気がします。