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慢性腎不全の犬の食事に求められる栄養のバランスとは

この記事の目次

愛犬が慢性の腎不全と診断されたら、これまでと同じ食事を続けるわけにはいきません。
なぜなら、残り少ない腎臓の機能を1日でも長く温存させるために、減らさなければいけない栄養素がいくつかあるからです。
だからこそ、腎臓病用の療法食は腎臓病に特化した栄養バランスで構成されているわけですが・・・。

慢性腎不全の犬の食事は基本的にタンパク質の量が制限される

慢性腎不全の犬にとって、食事療法は絶対に欠かすことができません。
なぜなら、機能の多くを失ってしまった腎臓にできるだけ負担をかけないようにすることが最重要だからです。
基本的に制限されるのはタンパク質とリンの摂取量。

しかし、犬にとってタンパク質は最も摂取しなければいけない栄養素でありながら、なぜ制限しなければいけないのでしょうか。
それは、ひとえにタンパク質を分解する際に生じる窒素とインドキシル硫酸の量を減らしたいからなんですね。
窒素は最終的に尿素となり、腎臓でろ過してから尿として排出されるわけですが、このろ過作業が多ければ多いほど腎臓に負担をかけることになります。
さらにはインドキシル硫酸には腎臓内の毛細血管を硬くする作用があるため、多く発生すればするほど腎臓にダメージを与えることに。
こういった腎臓にかかる負担を軽減するために、タンパク質の量は制限されることになるのです。

慢性腎不全の犬の食事はリンの量も制限する必要あり

リンは骨や歯を作るうえで必要なだけではなく、DNAやRNA(核酸)、ATP(筋肉を動かす時のエネルギー源となる物質)、細胞膜の成分となる重要な栄養素です。
つまり、本来なら欠かせないはずの栄養素であるリンをなぜ制限する必要があるのかといえば、それはカルシウムと結びつく性質があるからです。

通常であれば摂取しすぎたリンは腎臓がろ過して尿中に排出されるのですが、慢性腎臓病の場合はこの排出機能が追いつきません。
すると血液中のリン濃度が高くなる状態――高リン血症になり、体はリンの濃度を正常に保つために、骨からカルシウムを取り出すことになります。
その結果骨がもろくなるだけではなく、血液中で結びついたリンとカルシウムが血管や腎臓に沈着して組織を破壊してしまうため、リンを制限する必要があるのです。

慢性腎不全の犬の食事はナトリウムを調節する必要あり

タンパク質とリンは制限する必要がありますが、ナトリウムはただ単に制限すればいいというわけではありません。
というのも、ナトリウムの摂り過ぎで高血圧に傾けば、それはすなわち腎臓に負荷をかけて腎不全を進行させることにつながります。
つまり、当然のことながら摂取のし過ぎはNG。
しかし、制限しすぎれば脱水を引き起こす原因となり、その結果腎臓の血流量を減少させて腎不全を進行させてしまうため、やはりNGなんです。

つまり、慢性腎不全の犬にとってナトリウムは多すぎてもダメ、少なすぎてもダメ。
だからこそ、適量の調節が必要なのです。

BUNを下げることだけを目的にすると必要な栄養が不足するというジレンマ

慢性の腎不全において、血液検査の項目「BUN/尿素窒素」の値を下げることはとても重要です。
だからこそ、BUNの数値を下げるために腎臓病の食事からはタンパク質を減らすわけですが・・・。

肉食獣寄りの雑食動物である犬にとって、本来ならタンパク質は最も重要な栄養素。
その食性からタンパク質を制限し続ければ、筋肉量の減少、抜け毛の増加、免疫力の低下など、体への悪影響が予想されます。
これでは体の活力そのものが失われてしまうことになり、なおのこと慢性腎不全の犬を長生きさせることが難しくなるではないでしょうか。

高品質なタンパク質と充分な水分摂取に加えてカルシウムの活用

現在、慢性腎不全の犬の食事における栄養の制限は、少しずつ考え方が変わりつつあります。
だからと言って、タンパク質の量を単純に増やせばいいというものではありません。
タンパク質の量を制限する必要はあるものの、摂取させるタンパク質は出来るだけ高品質なものにするべきだ、という考え方です。

では、高品質なタンパク質とは何かといえば、それはアミノ酸スコアの高いタンパク質のことです。
アミノ酸スコアの高いタンパク質は消化吸収率に優れているため、腎臓に負担をかける窒素を余分に産出しにくい、という考え方がされているわけですね。
しかし、いくら高品質なタンパク質であっても、分解の過程で窒素などの老廃物をゼロにすることはできません。
だからこそ、しっかりと水分を摂取させることで、体外への排出を促す必要があるのです。

さらには食事からカルシウムをきちんと摂取させることができると、リンは腸内でカルシウムと結合し、血液中には入らずに便として排出されることになります。

というわけで、慢性腎不全の犬の食事に求められるもの。
それは、「質の高いタンパク質」「充分な水分摂取」「カルシウムによるリンの排出」の3本柱です。

限りある命だからこそ、楽しく過ごさせてあげたい

愛犬が慢性の腎不全と診断されたら、残りの寿命について考えずにはいられません。
あと1年?
あと半年?
もしかしたら3ヶ月持たないかもしれない・・・。
しかし、だからこそ最後の最後まで、愛犬には楽しく過ごしてほしいと思いませんか?

そのためにも、食事の内容はとても重要。
腎臓に負担をかけにくく、なおかつ出来るだけ美味しいものを愛犬に食べさせてあげたい。
それができるのは、ほかならぬ飼い主さんだけなのです。