MENU

犬の腎不全/リン吸着剤の使い分けについて

この記事の目次

腎不全用のドッグフードはタンパク質とリンの含有量が低く設定されています。

しかし、そういった療法食を食べさせていても、血液中のリン数値が上昇していくことは珍しくありません。だからこそ、リン吸着剤を使用することで可能な限りにリン数値の上昇を食い止めたいところなのですが……。

リン吸着剤の目的は食べた物の中のリンを積極的に排除すること。しかし、目的は同じでもリン吸着剤は種類によって主成分に違いがあります

性質の違いを考慮しないまま愛犬の体質や体の状態に合わないタイプのリン吸着剤を服用させていると、仮にリン数値の上昇はおさえられたとしても、違うところで体調悪化をまねきかねません。

リン吸着剤は成分による性質の違いをきちんと理解したうえで使い分けをする必要があるのです。

犬の腎不全に用いるリン吸着剤はカルシウム製剤か鉄製剤

リン吸着剤は食事と一緒に摂取しなければ効果を発揮しません。

なぜなら、胃や腸など消化管の中で食べ物から遊離したリン酸イオンとリン吸着剤を結合させることで便と一緒に排泄させるからです。

さて、そんなリン吸着剤ですが、犬の腎不全に使われるのは主に「カルシウム製剤」「鉄製剤」です。

これらはサプリメントにカテゴライズされているため、動物病院で処方されたものとまったく同じものを市販で手に入れることが可能。その他に「塩酸セベラマー(ポリカチオン性ポリマー)」や「炭酸ランタン水和物」のリン吸着剤もありますが、こちらは完全なる処方薬です。

つまり、獣医師が処方しないと使うことができないため、当然のことながら市販はされていません。(2021年現在)とは言え、どちらも人間の腎不全には用いられるものであり、近頃は犬の腎不全においても処方されるようになりました。

ただし、リンの吸着力がカルシウム製剤や鉄製剤より強いため、動物医療においてはまだ一般的とまではいえません。カルシウム製剤や鉄製剤ではリン数値の上昇をおさえられなくなったときに処方を検討する、という使われ方がされています。

>>慢性腎不全の犬の食事内容について詳しくはこちら

カルシウム製剤のリン吸着剤

犬の腎不全において最も一般的なリン吸着剤はカルシウム製剤です。

  • カリナール1(バイエル薬品)
  • カリナールコンボ(バイエル薬品)
  • イパキチン(日本全薬工業)
  • プロネフラ(ビルバックジャパン)

上記はいずれも炭酸カルシウムを主成分とした動物用のリン吸着剤。サプリメントとして市販されているため、ネット通販などを利用すれば動物病院より安く手に入れることが可能です。「カリナール1」「カリナールコンボ」「イパキチン」は粉状で、プロネフラだけが液体。

どれが良い悪いというのは一概には言えませんが、カリナールはどうやら独特な風味があるらしく、犬によっては嫌がることがあるようです。イパキチンは無味無臭のため、その点においては使いやすいかもしれません

また、粉タイプは溶けにくく、療法食に混ぜる分には問題ないものの、水に溶かしてシリンジで飲ませる場合にはダマになるので要注意。

カリナールよりはイパキチンのほうが水に混ざりやすいですが、味さえ嫌がらなければ液体タイプのプロネフラが一番使いやすいといえるでしょう。

カルシウム製剤の注意点

カルシウム製剤は他の製剤に比べて安価なため、腎不全の犬の飼い主としてはありがたく使い続けたいところですが……。

血中のカルシウム値が高い場合は要注意!

カルシウムの過剰摂取により、高カルシウム血症や異所性石灰化(骨以外の軟部組織にカルシウムが沈着すること)を引き起こす可能性があります

また、なんらかの疾病の治療目的で活性型ビタミンDを投与されている場合も、カルシウムの過剰となるためカルシウム製剤のリン吸着剤は併用できません。

いずれにしろ、かかりつけの獣医師に相談して使うのが一番安全です。

鉄製剤のリン吸着剤

犬の腎不全において使われている金属系のリン吸着剤は鉄製剤で、主成分は塩化第二鉄です。

  • レンジアレン(ノバルティス)

カルシウム製剤と比較して鉄製剤のリン吸着能力は高いですが、リン排除の原理は同じ。つまり、消化管内で生じた遊離リンを吸着し、便として排出するのです。

ちなみに鉄製剤のリン吸着剤を服用すると便が黒くなるのでびっくりしないでください。動物用として市販されている鉄製剤のリン吸着剤はレンジアレンがあります。

カルシウム製剤と同様にネット通販などで購入できるため、動物病院より安価で手に入れることが可能です。レンジアレンは粉状ですが、カルシウム製剤に比べて溶けやすく、使い勝手がいいのがありがたいところ。風味もわりと犬に好まれるようです。

良いことづくめに思われる鉄製剤ですが、ネックとなるのはなんと言っても価格面。カルシウム製剤より割高なのが飼い主としては悩ましいところです。

鉄製剤の注意点

血中のリン数値によっては規定量の4倍まで使うことができますが、鉄製剤を飲ませるとお腹がゆるみやすくなるのが難点です。

また、金属を使っている性質上、微量ではありますが鉄が体内に溜まっていくことも忘れるべきではありません。鉄の過剰摂取によって食欲が失われてしまった場合、体力に悪影響を与える可能性があります。

犬の腎不全にリン吸着剤を使う上で注意すること

リン吸着剤を使うにあたり、同時に服用させる薬やサプリメントの種類には注意が必要です。

腎不全の犬には体内の毒素を吸着させる目的で活性炭を服用させることがありますが、リン吸着剤との併用は効果を薄めてしまうのでNG。また、同様にニューキノロン系の抗菌薬との併用もNGです。

腎不全を患っている我が家のミックス犬は血中のカルシウム値が高いため、現在はレンジアレンを服用中。

しかし、失明してしまった眼球が炎症を起こしやすく、ニューキノロン系の抗菌薬が欠かせません。そこで薬剤の効果が薄れないようレンジアレンは朝食に混ぜ、抗菌薬は夜というようにしっかりと時間をあけています。

いずれにしろ、リン吸着剤は素人判断で使っていいものではありません。定期的に血液検査を受け、その結果からリン吸着剤の種類を決定するのが一番安全です。