犬の高脂血症には重篤な病気が隠れている可能性あり!
私たち人間にとって、高脂血症(脂質代謝異常症)はあまり珍しい病気ではありません。
いわゆる生活習慣病の一つであり、中高年になればなるほど患者数が増える病気でもあります。
このあたりが、なんとも物悲しいわけですが・・・。
さて、そんな高脂血症は犬もかかる病気。
しかも、人間と同様に生活習慣によって発症することもあるのです。
犬の高脂血症とは、つまりどういう状態?
犬の高脂血症とは、血液中の中性脂肪(トリグリセリド)やコレステロールの両方、もしくはどちらか一方の値が高くなっている状態のことです。
中性脂肪(トリグリセリド)
ブドウ糖(エネルギー源)が不足した場合にエネルギー源として使われる脂肪酸。食物から摂取したエネルギーに余剰がでると、肝臓で中性脂肪が作られたのちに、皮下脂肪になります。
つまり、中性脂肪は犬の体に必要なものではあるが、過剰になると脂肪肝や肥満の原因にもなりえます。
コレステロール
有機化合物の一種。細胞膜、性ホルモン、副腎皮質ホルモン、胆汁などの材料になる物質です。
血液検査の項目でいうと、「総コレステロール」が異常に高い値を示していた場合、高脂血症が疑われることになります。(総コレステロールとは中性脂肪とコレステロールの数値を合計したもの)
とはいえ、食後に中性脂肪やコレステロールの値が上昇するのは異常なことではありません。
つまり、なんらかの病的な原因によって高脂血症がみられるかを判定するには、12時間以上の絶食をした後に血液検査をする必要があるのです。
もしも絶食したにもかかわらず高脂血症がみられる場合は、食べ物による影響ではないと判断されることになるでしょう。
つまり、なんらかの病気が隠れている可能性が高くなるのです。
犬の高脂血症と人間の高脂血症の違い
人間も犬も、高脂血症はどちらも中性脂肪やコレステロールが異常に高くなってしまった状態です。
しかし、それによって引き起こされる病気には違いがあります。
たとえば人間の場合は、高脂血症は動脈硬化、心筋梗塞、狭心症などの最大の危険因子とみなされています。
さらには脳梗塞や糖尿病、慢性腎臓病、脂肪肝などの危険因子にも該当しますから、高脂血症がいかに恐ろしい状態であるのかがわかりますよね。
では犬の場合はどうかといえば、動脈硬化や心筋梗塞の原因になることはまれです。
なんだ、じゃあ心配する必要はない・・・などと思ったら大間違い!
犬の高脂血症は、トリグリセリドの値が500を超えると急性膵炎を引き起こす可能性が高くなるのです。(犬のトリグリセリド正常値は30~133 mg/dl)
急性膵炎は激しい腹痛や嘔吐・下痢といった症状を引き起こし、犬の体を急激に衰弱させる厄介な病気です。
また、総コレステロールの値にしても、300を超えてしまうと角膜の脂質沈着を引き起こし、角膜が白く濁るだけではなく、痛みがでる可能性もあります。(犬の総コレステロール正常値は120~255mg/dl)
いずれにしても放置してよいものではありません。
犬の高脂血症は人間の場合と同じように、早急に対策をしなければ危険な状態なのです。
犬の高脂血症の症状
高脂血症の厄介なところは、かなりの異常値になるまであまり症状が出ないことです。
さらには原因が様々にあることから、その症状も個々によって違いがあります。
- 食欲不振
- 下痢や嘔吐
- ぶどう膜炎(目の中に炎症が起きた状態)
- 激しい腹痛
- 多飲多尿
こういった症状は、糖尿病やクッシング症候群、閉塞性肝障害や膵炎といった病気が原因で起きることがほとんどです。
つまり、高脂血症はそういった病気による影響の一つと考えるべきであり、高脂血症のみに的を絞っていたのではなかなか改善しません。
大元の病気が何であるのかを突き止めたのちに治療を開始しなければ、高脂血症を根本から改善することは難しいのです。
犬の高脂血症の原因
高脂血症と一口にいっても、考えられる原因は主に3つ。
原発性高脂血症
一次性高脂血症とも呼ばれるもので、いわゆる遺伝や突発性(原因不明)によるもの。
ミニチュアシュナウザーは遺伝的に高リポタンパク血症(リポタンパク質の代謝過程に不完全な部分がある)すなわち高脂血症を起こしやすい犬種です。
また、シェットランドシープドッグ、ビーグル、ドーベルマン、ロットワイラーなどは突発性の高脂血症を起こしやすい犬種であることが報告されています。
続発性高脂血症
二次性高脂血症とも呼ばれるもので、糖尿病、肝疾患、膵炎、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、ネフローゼ症候群などの病気による影響を受けて発症します。
生活習慣による高脂血症
質の悪い脂肪分の摂り過ぎ、恒常的な高脂肪の食事、肥満、運動不足といった健康に悪い生活習慣によるもの。
犬の高脂血症の治療
原発性、続発性、生活習慣のすべてにおいて共通するのは、食事内容の見直しです。
- 良質な高タンパク低脂肪の食事
- 血糖値のコントロール
- 腸内細菌バランスの正常化
まずは上記を心がけた食事内容へと見直しが必要です。
そのうえで、原発性の場合は必要に応じて抗高脂血症薬を使うことになるでしょう。
続発性の場合は食事内容を見直したうえで、それぞれ原因となっている病気の治療を開始することになります。
さて、一番問題となるのは生活習慣が原因の場合。
はっきり言って、生活習慣による高脂血症は飼い主さんの責任です。
つまり、何が原因で愛犬が高脂血症になってしまったのかを、飼い主さんが自覚しなければ改善することはできません。
食事内容を改善すればいいんでしょ?と簡単に考えてしまいがちですが、そういうことが今までできていなかったからこそ、愛犬はいま高脂血症になっているのです。
きちんと責任を自覚しなければ、時間がたつにつれて食事内容がなぁなぁになっていくのは目に見えています。
生活習慣による高脂血症の治療は、自分が原因だったと飼い主が本気で自覚することから始めるべきです。
定期的な血液検査は早期発見のカギ
高タンパク低脂肪の高品質な食事を食べさせていても、愛犬が高脂血症になることはあります。
だからこそ、定期的な血液検査が必要。
血液検査の項目に異常値が見つかってからあわてるより、日ごろから予防を心がけておくことこそ、愛犬の長生きにつながるのです。