愛犬の生活を守るペット信託の仕組みとは?
自分に万が一のことがあったとき、愛犬の行く末はどうなってしまうのだろう?
安心して愛犬を託せる親や兄弟姉妹、親戚や友人がいない飼い主にとって、これはシャレにならない問題ではないでしょうか。
こういった不安は、なにも天涯孤独な人に限った話しではありません。
血のつながった親や兄弟姉妹、自分の娘や息子、そして孫が何人いたとしても、さらにはアドレス帳に大勢の友人の名前が登録してあったとしても、愛犬の世話をしてくれる人が一人も見つからないという事態は充分に起こりうるのです。
遺言で愛犬に財産を残すことはできない
いざという時のために、愛犬にも財産を残してあげれば、その後なんとかなるのではないか――。
そう考えたとしても、遺言書によって愛犬に財産を残してあげることはできません。なぜなら遺言書とは対象が「人」であり、法律上「物」として扱われてしまう「犬」は対象とはならないからなんですね。
たとえば、親や兄弟姉妹、自分の娘や息子となんらかの事情があってすっかり疎遠になっていたとします。もはや縁を切った他人も同然であり、まったくもって親しみを感じることができない。
大切なのはずっとそばにいてくれた愛犬だけ。
だからこそ愛犬に財産を残してあげたいのに、それでも何の準備もなく飼い主が突然亡くなってしまった場合、財産は法律に基づいて他人同然となってしまった血縁者へとわたることになるのです。
まあ、これがドラマや映画であれば、その後莫大な財産をめぐって骨肉の争いが展開されることになるのでしょうが…。
現実的な話しとしては預貯金がいくらかと、保険金、それから持ち家なら不動産の価値が関係してくるところですが、賃貸であればそれすら無用な心配。
とどのつまり、自分の死後に残せる金額が微々たるものだとしても、だからこそ愛犬が天寿を全うするために使ってほしいのに、何の準備もしていなければ、それすら叶わないことになるのです。
ペット信託で愛犬のその後の生活を安定させる
遺言書に「〇〇に財産を残すから、必ず愛犬の世話をするように」と記載したとします。
その通りにしてくれたらいいですが、遺産だけもらって犬の世話をするどころか保健所で殺処分…、という事態が起こらないとは言い切れないんですよね。
なんだか絶望的な気分になりそうですが、方法がないわけではありません。そういった「自分がいなくなったときの心配」を少しでも軽減させるには「信託」を利用するという方法が現実的です。
信託とは、ざっくりと言ってしまえば信用して委託すること。
とりわけ、他人にある目的のために財産の管理や処分をしてもらうことなんですね。要するに、自分の身に何があっても愛犬が安心して暮らせるだけの費用を残しておくために、財産の一部を「信託財産」という形にしておくことにより、相続の対象となる財産から分離することができるのです。
そして信託財産の大きな特徴としては、飼い主が存命中から利用することができる点。つまり、遺言であれば自身の死後についてのみの話しになりますが、信託の場合は自身が生きていても有効。
病気やケガなど、なんらかの理由で愛犬の世話ができなくなってしまった場合、愛犬が行き場をなくすといった最悪の事態を回避できる可能性が高くなるのです。
もしものときに愛犬の生活を守る信託の仕組みとは
愛犬のための信託財産を考えるうえで、最も重要なポイントは愛犬のその後をどうするか、そして受託者(信託財産の管理などを行う者)を誰にするかという点です。
愛犬のその後をどうするのかについての選択肢としては
- 里親(新たな飼い主)を探す。
- 老犬ホームもしくは終生飼養の施設を利用する。
おおむね上記のどちらかになるのではないでしょうか。では、誰が里親を探したり、もしくは老犬ホームや終生飼養の施設を探すのかが問題になってくるはずです。
受託者を個人に依頼する場合には、よほど信頼のおける人でない限りは、勝手なことをされてしまうのではないかと新たな心配の種になりそうですよね。
それを回避するための方策として、「信託監督人」をおくことができるのです。
信託監督人とは愛犬のために残したいお金がきちんと目的通りに使われているのかを監視する役目を担い、たいていは信託契約を作成する弁護士、行政書士、司法書士などが就任します。面白いもので、信託の最大の強みはまさにこの部分。
仮に遺言で愛犬の世話を頼んだとしたら、その実行に関しては遺産を受け取った人の善意に頼るしかありません。ところが信託の場合は、その実行に強制力と監視がつけられるのです。
すなわち、愛犬のその後の道筋をつける信託財産の受託者は、善管注意義務(善良な管理者としての注意を怠らない)、忠実義務(忠実に事務を実行する)、分離管理義務(信託財産とそれ以外をきちんと分離して管理する)を遵守しなければならないからです。
信託なら細かな要望も叶えられるが一筋縄ではいかない可能性も
大切な愛犬のために「死ぬまで最高級のプレミアムフードを食べさせてほしい」と遺言書に残しても、実行されるかは遺産を受け取った人次第。しかし、信託であれば契約を実行する条件にしておくことで、それらが実現できているかを見守ることも可能です。
「なんだ、こんなに希望通りになる方法があるなら、愛犬のためのお金は信託財産にすれば万事OKじゃないか!」
と飛びつきたいところですが、問題は受託者を誰にするのかという、この一点に尽きるのではないでしょうか。
心から信頼できる誰かがいる場合はいいですが、そうではない場合は人選の困難さが信託最大のデメリットともいえるのです。
ペットの信託に特化したNPO法人や財団法人などを利用するという方法もありますが、そうなるとそれなりの費用が発生することに。いずれにしろ、人選面、費用面の両面において一筋縄ではいかない受託者選びですから、慎重に検討しなければなりません。
私がいなくなったとき愛犬はどうなるの?
ある日突然、なんらかの理由によって愛犬の世話ができなくなってしまったら――。
そのとき、愛犬の行く末がどうなるのかを具体的に想像してみてください。これは他人事ではありません。
病気やケガだけではなく、災害や事件など、いつどこで何が起こるかは誰にもわからないのです。大切な愛犬だからこそ、最悪のケースにおいても出来る限りのことをしてあげたい。
だからこそ、まずは万が一の場合に面倒をみてくれそうな人がいるのかを考えることから始めてみてほしいのです。