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犬は走ることでストレスが軽減される?

この記事の目次

犬にとって散歩はとても重要――。

まさしくその通りではありますが、もはや耳にタコができそうなほど、言い尽くされたフレーズでもありますよね。ところで、「散歩」という言葉には「歩く」というイメージが強いように感じます。 たいていの飼い主さんにとって、愛犬を走らせることは「散歩」というよりは「運動」。

だから必然的に「犬を散歩させること」=「犬と歩くこと」になるわけですが……。犬にとって「走る」という行為には、実は「歩く」こととは少々違う作用があります

そして、それは私たちが想像する以上に重要な意味が隠されているのです。

日本の犬のほとんどは走るイメージがない室内飼育の小型犬

犬を走らせることの意味を考える前に、まずは最近の飼い犬事情を振り返ってみたいと思います。ペット損害保険会社が発表した最新の人気犬種ランキング(2020年版)では下記の順位になっています。

  1. トイプードル
  2. チワワ
  3. ミックス犬(体重10kg未満)
  4. 柴犬
  5. ミニチュアダックスフンド
  6. ポメラニアン
  7. ミニチュアシュナウザー
  8. ヨークシャーテリア
  9. フレンチブルドッグ
  10. シーズー

2005年あたりまでは大型犬のラブラドールレトリーバーや、中型犬の中でもアクティブな牧羊犬種であるウェルシュコーギーがランクインしていました。しかし、ランク外に消えてもう15年が経ちます。

ここ15年の変遷は、ほぼ室内飼育が基本の小型犬種で占められるようになりました。屋外飼育にも対応できる犬種の中で、唯一健闘しているのは柴犬だけ。

途中からランクインするようになったフレンチブルドッグは、サイズだけをみれば一応は中型犬にカテゴライズされていますが、普通に考えたら室内飼育が基本。

いわゆる一般的なイメージからすると「走ること」に直結するタイプの犬種ではありません

このように、すっかり小型犬で埋めつくされた人気犬種ランキングですが、それでも「犬にとって散歩は大事」という概念は今もちゃんと維持されてはいます。いわゆる、犬の社会化などを考えればこれは当然のことですが、「走る」という概念からは遠ざかっていることは否定できません。

なぜなら、小型の室内犬たちは室内や庭をウロウロするだけでも充分な運動量が確保できているように見えてしまうからです。しかし、犬が走ることは脳内での神経伝達に関わる重要な行為であることを、私たち飼い主はもっと知るべきではないでしょうか。

犬は走ると脳内麻薬が分泌される生き物

私たち人間にとって、走ることはけっこうしんどいことですよね。走り出した当初は苦しかったとしても、それを我慢して走り続けていると、ある時点から逆に気持ちが良くなってきて、むしろ楽しい気持ちにさえなっていく……。

これはいわゆるランナーズハイと呼ばれる状態。メカニズムとしては、脳内がアルファ波とベータエンドルフィンという快楽ホルモンで満たされることで苦痛が軽減され、なおかつ高揚感すら生み出されるからだ、というのが定説です。

さらにランナーズハイの研究が進み、2015年頃からは、ランナーズハイを生み出している物質はベータエンドルフィンではなく、内在性カンナビノイドではないか、という説も提示されるようになりました。

このなにやら聞きなれない「内在性カンナビノイド」とは、脳内で分泌される化学物質のことで、いわゆる脳内麻薬と呼ばれる物質の一つです。

簡単に言ってしまえば、何か体がつらい状態に陥ったとき、その苦痛を軽減させるために痛みを感じなくさせたり、気分が良いと感じさせることでその状況に耐えられるよう、脳内で分泌される物質のことですね。

そして犬が「走る」という行為を行うと、血液中の内在性カンナビノイドのレベルが上昇することが判明しています。つまり、犬にとって「走る」という行為は脳が「気持ちよい」「楽しい」「幸せだ」と感じる行為そのものなんですね。

そして、単純に「歩く」だけの行為では犬の血液中の内在性カンナビノイドのレベルは上昇しないことも判明しています。もちろん、歩くことが犬にとって意味のないことだと言っているのではありません。

大好きな飼い主と外界を歩くことは、間違いなく犬の幸せと直結しています。

しかし、いわゆるランナーズハイのように強烈な脳内麻薬を愛犬の脳内で分泌させようと思ったら、「走る」という行為が近道であることは間違いないのです。

この脳内麻薬が犬のストレスを軽減させることを考えたら、見過ごすことはできないと思いませんか?

犬と走ることは飼い主にとってもメリットがいっぱい!

走るという行為によって犬の脳内で内在性カンナビノイドが分泌し、結果として強烈な幸せを感じてストレスが軽減される――。これは人間にとっても言えることなんですね。

ベータエンドルフィンなのか内在性カンナビノイドなのかは別にして、とにかく走ることにより、あるラインを超えた瞬間から人間の脳内にも快楽物質が分泌されるのです。

しかも、イギリスの大学が行った運動心理学の研究によると、人間単独で走ることと比較して、愛犬と一緒に走ったときのほうが充実感が高まるという研究結果も報告されています

愛犬と一緒に走ることを前提とすることにより、走る前から走ろうという意欲が高まることに加え、走ったあとの疲労感までが軽減されるのだとか。これはもう、ぜひとも愛犬を連れて走りたくなるところですが、普段から走りなれない飼い主がいきなり愛犬を連れて長距離を走ろうとしても、それはあまりに無謀というもの。

足腰を痛めてしまったら元も子もありませんし、急に走ろうとすればつらさばかりが勝ってしまい、長続きしないのは目に見えています。

というわけで、まずは愛犬を連れていつものペースより少し早足で歩くことから始め、時々短かい距離を走ってみる。こんな導入が一番続けやすいのではないでしょうか

走ることで落ち込んでいたシュナウザーが喜んだ!

筆者はまさしく運動不足の大人そのもので、ランニングやジョギングとは無縁の人生。

しかし、同居犬を失って落ち込んでいたシュナウザーを元気付けるべく、散歩の途中で少しだけ走ることを取り入れてみました。当初の予定としては、100メートルぐらい走ったら歩く。

これを3回ぐらい繰り返すことから始めてみようと計画したのですが、実際に筆者が走れたのは50メートル程度の距離をどうにかこうにか2回だけ。心は走ろうにも体がまるでついていかず、ゼェゼェしながら必死に予定より短い距離をシュナウザーと一緒に走りました。

それでも、散歩のあとのシュナウザーはといえば、いつもより充実した顔をしていたように見えました。見間違い、もしくは久しぶりに走ったせいで口の中に血の味を感じていた筆者の願望が見せた幻だったのかもしれません。

しかし、ドタドタ走ることを取り入れた散歩を地道に続けていくうちに、仲間ロスで落ち込んでいたシュナウザーは徐々に元気を取り戻してくれました

きっと脳内で快楽物質が分泌されたからだ!と信じつつ、アキレス腱を切らない程度に今日も散歩中にちょっとだけ走るつもりです。