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犬の先進国にならない限り、日本から遺伝性疾患の犬は減らない

この記事の目次

人気のある犬種ほど、かかりやすい病気――いわゆる遺伝性疾患があることは、とても残念な事実です。
特に日本は遺伝性疾患の犬が多い国。
経済的には先進国でありながら、犬に関してはまったくの後進国と言わざるを得ません。
これってなんとも恥ずかしい話しだと思いませんか?

犬種の流行は遺伝性疾患の温床

では、なぜ日本には遺伝性疾患の犬が蔓延しているのかといえば、テレビや映画などの影響によってある特定の犬に注目が集まったとたん、その犬種が流行になるからです。
要するに、人気犬種をほしい人が大量発生することで、需要を満たすべく子犬がガーっとブリーディングされてしまうわけですね。

当然のことながら、人気が出たとたんに1匹あたりの価格は驚くほど急上昇します。
まさしく、ブリーダーにとっては儲けるチャンス到来。
というわけで、業者も個人も目の色を変えて繁殖しまくるわけです。

そうなれば、モラル無視のブリーディングが横行するのは必然。
その結果、遺伝性疾患のある子犬が大量生産されてしまい、日本全国へと広がっていくのです。
そして遺伝性疾患を持つ犬が成長したのちに、また繁殖に使われて、連綿とそれが続いていく・・・。

こんなことを続けていたら、日本はいつまでたっても犬の先進国になんてなれるわけがありません。

そもそも犬は遺伝性疾患が多い生き物

犬の遺伝性疾患は、無秩序なブリーディングだけがもたらすものではありません。
現在、いわゆる「犬種」と呼ばれるものは世界中で700~800種あるといわれています。
ジャパンケネルクラブ(JKC)に登録されている犬種だけ見ても、2017年の統計において登録犬種数は200。
これはすべて国際畜犬連盟(FCI)に公認されている344犬種の中の200種類です。

「犬」と一口に言ってもこれだけ多種多様になったのは、ひとえに人間の手による種の固定が行われているからですね。
要するに、同じような姿かたち、性質になるように、同じ(ような)犬と犬を交配させているのです。
たとえば、ドーベルマンとドーベルマンを掛け合わせることでドーベルマンを生み出しています。
ドーベルマンと秋田犬を掛け合わせたら、見た目からしてドーベルマンからは大きく外れてしまいますから、当然ですよね。

同じ犬種と犬種を交配させることは、純血種をブリーディングするうえではごく当たり前のことだと私たちは認識しています。
トイプードルがほしい人にとっては、父犬、母犬、祖父犬、祖母犬・・・と代々さかのぼってもトイプードルしか見あたらない血統の子犬を得ようとするのが普通ですよね。
しかし、同一の犬種のみでブリーディングをするということは、ある意味とても狭い世界の中だけで血を分け合っていることと同じです。
たとえ直接的な近親交配ではないにしても、自然界ではありえないほど血が濃い中でブリーディングがされていくことになるんですね。

だからこそ、シェパードはシェパードとしての、ダックスフンドはダックスフンドとしての特徴が受け継がれていくわけですが、それは同時に遺伝性疾患までもが受け継がれていきやすい土壌を作っているのです。
そこに無秩序なブリーディングが加わってしまったら、もう手が付けられないほど遺伝性疾患が蔓延するのは、ある意味当然のことではないでしょうか。
仮に、「私はきちんとブリーディングをしている」と思っていても、実は遺伝性疾患が隠れた組み合わせで交配していた、という事態も充分にありえるのです。

犬種を維持しながらでも遺伝病を防ぐことはできるはずなのに

犬という生き物、とりわけ純血種と呼ばれる犬種に関しては、その作出には100%人間の手が介在しています。
それを自然か不自然かと問われたら、生き物としてはかなり不自然なのでしょう。
しかし、だったら純血種なんてこの世からなくせばいい!などと乱暴なことを言うのがためらわれるほど、作出された犬種の姿かたち・性質には魅力があふれています。

では、せっかく固定した犬種それぞれの素晴らしさ・特性を維持したまま、遺伝病を排除することは不可能なのでしょうか?
結論から言ってしまえば、方法がないわけではありません。
遺伝子レベルできちんと検査をし、遺伝性疾患を持たない母犬と遺伝性疾患をもたない父犬のみを掛け合わせていけばいいだけの話なんです。

ものすごく単純。
しかし、これがどうしようもなく難しい。

なぜなら、人間は出来る限り損をしたくないし、自分が得をするのであれば、ちょっとしたことには目をつぶってしまう生き物だからです。
要するに、1匹1匹の遺伝子検査を実施していたら、費用がかかるのはもちろんのこと、繁殖数がかせげなくなります。
そんな手間をかける業者は一握りどころか一つまみもいないのが現状である以上、犬の遺伝性疾患を排除できる日は永遠にこないのかもしれません。

まずは日本が犬の先進国と肩を並べること

モラル無視のブリーディングをなくすのはもちろんのこと、犬と暮らす私たち飼い主のすべてが意識を変えなければ、本当の意味で犬種固有の遺伝性疾患を撲滅することはできません。
そのためには、最初の一歩として、まずはドイツやイギリスのような犬の先進国に近づく努力から始めるしかないんです。
日本と比較して、ドイツやイギリスはブリーディングに関しても、犬との付き合い方に関しても、日本よりはるかに意識が高いことは間違いありません。
しかし、それでもすべての人が正しく犬と向き合っているとは限らないのです。

それでも、まずはこういったレベルに近づけるよう、犬という存在についてきちんと考えることから始めるべきではないでしょうか。
結局のところ、日本を犬の先進国にするためには、犬を扱う業者だけが変わればいいのではありません。
すべては需要と供給から成り立っています。
モラルの低いブリーダーがいつまでたってもいなくならないのは、安易に犬を飼う飼い主がいなくならないからです。