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展覧会で活躍することが期待された秋田犬の悲劇

この記事の目次

展覧会を主体に子犬を繁殖する犬舎において、
生まれた子犬の中で次世代を担う犬を犬舎に残すことはとても大切なことです。

つまり、展覧会で活躍できそうな子犬は外部に販売せずにそのまま犬舎で育てるわけですね。
もちろん、生まれてすぐどの子犬に素質があるのかを判断することはできません。

子犬の目が開いて離乳を考える頃までに、大方の見当をつけることになるのです。

本当はもっと長く見極めたい

できることなら生後60日ぐらいまで成長を見たうえで
展覧会用に残す子犬を決めたいところですが、
そんな時期までもたもたしていたら子犬達の行き先が決まりません。

遅くとも生後40日ぐらいまでにはある程度の当たりをつけ、
その子犬以外は販売にまわさなければいけない
のです。

そして展覧会出陳用に残された子犬は、
幼い頃からリングに立つための教育がほどこされていくことになります。

誰にでもシッポを振る犬はダメ

ある秋田犬の展覧会犬舎において、次世代を担えそうな子犬がようやく生まれました。

繁殖者は高齢で、よほどの子犬でない限りは
もう展覧会の犬にはしないと言っていたのに選んだのです。

これはさぞかしと、みんなが期待しました。
子犬は体格もよく、着物(被毛のこと)の色や毛質もよく、
そして何より目つきと顔つきが展覧会向き
でクオリティは申し分ありません。

そして展覧会にむけた教育が始まったのです。
展覧会においては堂々とリングに立てる素養が必要とされるため、
誰にでも愛想良くシッポを振るような犬に育てるわけにはいきません。


なぜなら犬が遊んでほしくてシッポを振るときは腰を落としてしまうからです。
その姿勢がリングの上で出たら致命的。

だからこそ展覧会用の子犬は普通の家庭犬と
まったく同じように育てることはできない
のです。

どうして懐っこい犬になったのか!?

ところが、この子犬は日に日に懐っこくて可愛い犬に成長していきました。
家人だろうが知らない人だろうが、だれかれかまわず
愛想良くシッポを振って遊んでくれとねだるのです。

犬舎さんはそういう性格にならないように、犬が大好きなお孫さんにすら
子犬に近寄ってはいけないと日頃から厳しく言っていました。


それなのに、子犬の遊びたがりはエスカレートするばかり。
そしてある日、その原因が判明しました。

犬舎の隣にある工場で働く従業員が知らない間に子犬を可愛がっていたのです。
その人は悪気があって子犬を可愛がっていたわけではありません。

もともと犬好きで、偶然子犬を見かけたときに
ブリーダーさんが抱っこをしたり遊んでやる様子がないのを不憫に思い、
こっそり可愛がっていたのだとか。

子犬の運命

それが判明してからは子犬を別の場所に移したそうですが、時すでに遅し。

子犬は初めて参加した展覧会の幼犬部門において、
周囲のギャラリーにシッポを振って飛びついてしまい、
落ち着いてリングに立つことなく終了。

もちろん結果は散々なものでした。

こうなるともう、将来的にも厳しいだろうという見方が優勢となり、
結局孫が秋田犬を飼いたがっているという一般家庭にもらわれていきました。

あの懐っこい子のことです。
家族みんなに可愛がられて生きる家庭犬として、
幸せな生涯を送るだろうと誰もが思いました。

ところが、その飼い主が犬を引き取って1年もしないうちに離婚することになり、
次の飼い主を探す努力をせずに保健所で殺処分してしまったのです。

もしも展覧会の犬として生きていたら……。
いえ、もしもなんてことはありえないことですよね。