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エキノコックスの危険性は拡大している

この記事の目次

2018年3月末に、非情に厄介なニュースが報道されました。
愛知県の知多半島で捕獲された3匹の野犬の糞から、エキノコックスが検出されたのです。

エキノコックスはキツネ→ネズミ→キツネというサイクルを繰り返す

エキノコックスは別名多包条虫とも呼ばれる寄生虫です。
体長およそ4~5mmほどのこの寄生虫のスタート地点はキツネ。
キツネの腸内に寄生したエキノコックスの卵が糞に混ざって外界へと排出され、その卵を食べたネズミの体内で孵化します。
そしてネズミの肝臓内で子虫の入ったのう胞をたくさん作り、そのネズミをキツネが捕食することでキツネの体内に入ったエキノコックスは成虫となって腸に寄生します。

そしてキツネの体内に入ったエキノコックスは腸に寄生して卵を生み、それが糞とともに排出され……というサイクルを繰り返していくんですね。
キツネでスタートしたエキノコックスの終宿主はキツネであり、このサイクルで増殖しているのです。

イヌもそのサイクルに加わる可能性のある生き物

基本的にはキツネに寄生して卵を生むエキノコックスですが、犬とキツネはともにイヌ科の動物。
犬もエキノコックスに寄生されてしまうんですね。
ただし、キツネにしろ犬にしろ、イヌ科の動物は終宿主となるため、寄生されても症状は下痢などが中心であり、そこまで重篤にはなりません。
むしろ、症状がでない無症状という場合も珍しくないぐらいです。
問題は、ネズミが寄生されたときのように、肝臓にのう胞を作られてしまう宿主。
ここにあてはまってしまうのが、エキノコックスの卵をなんらかの形で経口摂取してしまった牛や豚、そして人間です。
そう――。
エキノコックスは人畜共通感染症ズーノーシスだからこそ、非情に厄介なんですね。

北海道限定の感染症だったはずが…

ほんの数年前まで、エキノコックスの感染は北海道内のみに限定されていて、本州は汚染されていませんでした。
そのため、北海道民には比較的よく知られている感染症ですが、本州に住む人々にとってはどこか他人事。
しかし冒頭に記載したとおり、愛知県の知多半島で、野犬がエキノコックスに感染していることが判明したのです。

実は、愛知県知多半島での感染報告は、今回が初めてではありません。
2014年に8匹の野犬が捕獲され、そのうちの1匹からエキノコックスを検出しているのです。
その前は2005年に埼玉県で感染が報告されていて、本州ではこれが初。
この犬は北海道から連れてこられた犬だったことが判明していますので、この時点で本州が汚染されたという認識はされませんでした。

しかし、2例目となる2014年の愛知県、そしてとうとう3例目となる2018年の愛知県。
こうなるともう、エキノコックスによって本州も野山の汚染が開始された、とみるべきではないでしょうか。

人間に感染した場合の症状

犬に感染した場合は無症状か、下痢程度の症状。
しかし、人間に感染した場合は軽症では済みません。
人間がエキノコックスに感染し、適切な治療をせずに放置した場合、死亡率は90%です。

と言っても、感染して即死亡するわけではありません。
5年から10年という長い期間をかけて肝臓にたくさんののう胞が作られていきます。
そのため、まずは肝臓がダメージを受け、次第に肝機能が失われていくことに。
そしてのう胞が破裂して子虫が出てしまった場合、血流によって脳や肺にまで広がっていくのです。

エキノコックス感染症の治療

犬がエキノコックスに感染した場合は、駆虫薬による治療が可能です。
しかし、人間の場合は駆虫薬での治療はできません。
外科手術によって可能な限りのう胞を取り除くことしかできないのです。

ところが厄介なことに、肝臓は沈黙の臓器と呼ばれるほど、その機能の多くが失われない限り、なかなか自覚症状が表れてきません。
そして気づいたときには肺や脳に転移していた、というあたりは、悪性のがんとよく似ていいますよね。
エキノコックスはたかが寄生虫などとあなどってはいけない、とても恐ろしい感染症を引き起こす条虫なのです。

予防としてできること

少し前までは、北海道に犬連れで遊びに行ったら、予防的に駆虫薬を投与したほうがいいと言われていました。
しかし、本州での汚染が開始された現在は、どこであってもキャンプなどのように野山で犬を遊ばせたら、予防として駆虫することが一番安全なのではないでしょうか。

そしてもちろん、人間の側もしっかりと手を洗うのはもちろんのこと、不用意に野山の水を飲んだり、草などを口に入れないことです。
こういう当たり前の衛生管理を徹底することが、感染症を遠ざけて楽しいドッグライフにつながっていくのではないでしょうか。