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ミックス犬の介護に追われる日々は不思議なほどに幸せ

この記事の目次

現在の日本は老犬大国です。

悪い意味にもとられがちの「老犬大国」という言葉ですが、長生きをしているワンちゃんがたくさんいることに他なりません。

しかし、愛犬の長生きを望んでいたはずなのに、いざ年老いた愛犬を前にして飼い主が考えずにはいられないこと。それは、介護生活への漠然とした不安と、愛犬の最期がどのようなものになるのかという、得体の知れない怖さではないでしょうか。

ミックス犬の介護にかかりきりの毎日

我が家のミックス犬(パグ×パピヨン)が腎不全の末期一歩手前と診断されたとき、正直に言えば余命はそう長くないだろうと覚悟しました。

当時の年齢は14才。

せめて4ヶ月後の誕生日を迎えて15才になってほしいと切に願ったものです。その願いは叶い、あと少しで16才の誕生日を迎えるところまできました。

ミックス犬の介護が本格化してからは、遠出をすることがほぼできません。

朝晩の強制給餌とは別に、昼、夕方、夜寝る前と水分を強制飲水させることに加えて1~2時間おきに目薬を点眼しないと、涙が出なくなったミックス犬の眼球がパサパサに乾いてしまうからです。可能な限り県外へ出向かなければいけない用事は断りますし、休日も遠出をして遊びに行こうとは思わなくなりました。

近頃は時々痙攣発作を起こすようになったこともあり、外食をする機会も大幅に減っています。……こんな風に書くと、なんだか犬の介護にしばられている、とても悲惨な毎日を送っているように思われるかもしれません。

しかし、これが意外にそうでもないんですよね。

なぜなら、ミックス犬と暮らしてきた約15年という月日の中で、ここまで1対1で濃密に向き合うことがなかったからです。まるで、これまで足りなかった分のスキンシップを埋めてでもいるかのよう。

食事やら飲水やら投薬やらで毎日何度もミックス犬を膝の上に乗せるたびに、愛おしくて抱きしめずにはいられません。介護が始まった当初は不安にかられて嫌な想像をたくさんしたこともありますが、今は不思議なほどに穏やかで幸せな時間が過ごせています。

ミックス犬の3人目の飼い主となった経緯

私の人生には、だいたいいつも近くに犬がいます。

時期によっては1匹だったり2匹だったり3匹だったり4匹だったり……。しかしミックス犬が私のもとへやって来たのは、大型犬を相次いで2匹亡くし、同居する犬がいなくなった時期でした。

ちょうど人生の転機を迎えた頃でもあり、しばらく犬は飼わないつもりでいたのです。ところが、そんなときにずっと音沙汰のなかった友人から突然の連絡が。

「保護した犬の飼い主になってもらえない?」

その犬こそが、我が家のミックス犬です。なんでも生後2ヶ月のミックス犬を育てていた最初の飼い主は、たったの4ヶ月でねをあげてしまったのだとか。

トイレのしつけがどうしても上手くいかず、家の中が汚れることに激怒した姑(しゅうとめ)に捨ててこいと言われたからという、信じ難いほど身勝手な理由からでした。

そこで友人が参加している犬の保護団体が一時的に預かることになったのですが、まだ生後6ヶ月の幼犬ということもあり、ほどなくして2番目の飼い主が決まったそうです。

これで一安心と思いきや、なんとその飼い主から3ヶ月後、生後9ヶ月になったミックス犬を引き取ってほしいと保護団体に連絡が……。

「先住犬のミニチュアダックスフンドが寂しくないように引き取ったが、どうしてもそりがあわない。このままではダックスが神経的に参ってしまうので、ミックス犬には別のお家を探してほしい」

またしても、理由は人間の身勝手な都合によるものでした。

「だから三度目の正直で、今度こそ最後まで大切にしてくれる人につなぎたい。無理だったら遠慮しないで断ってくれてかまわないから」

友人の真剣な言葉に私も本気で検討し、そしてミックス犬を引き取ることを決めました。事情を知って可哀想になったということがないわけではありませんが、何よりも不思議な「縁」を感じたからです。

もしも大型犬がまだ存命中だったら、間違いなく断っていたでしょう。

しかし、数年ぶりに友人が連絡をしてきたのは、大型犬を見送った日からおよそ4ヶ月が経ち、ようやく気持ちの折り合いがつきはじめた頃。大型犬が亡くなった直後は気持ちの整理がつかず無理だったと思いますし、1年後だったら別の犬を迎えていたかもしれません。

そう考えると、ミックス犬との出会いは実にタイミングが絶妙でした。

次々に増えてあっという間に4匹

ミックス犬と暮らし始めてから1年後、イタリアングレイハウンドの子犬が我が家にやってきました。

その翌年にはミニチュアシュナウザー1号、さらにその1年半後にミニチュアシュナウザー2号が合流。あれよあれよという間に我が家の小型犬チームは4匹に増えたのです。

今にして思えば、ミックス犬には可哀想なことをしてしまいました。なぜなら、次から次へと子犬が増えていったことで、なかなかガッツリとミックス犬に向き合ってやれなかったからです。

妹犬達は揃いも揃って甘えん坊のうえに乱暴者。私も家人も常にドタバタ状態でした。

ミックス犬が抱っこをしてほしくて近づいてきても、チビ犬達がなんだかんだで割り込んできます。そんな日々を過ごすうちに、長女のミックス犬はいろいろなものをあきらめざるを得なかったのでしょう。

いつの間にか、飼い主の手をわずらわせることがない犬――つまりは要求の少ない犬になっていました。

ミックス犬との今を大切にしたい

子犬の頃から甘えん坊の暴れん坊で、家の中のものをこれでもかというぐらいに破壊しつくしたミニチュアシュナウザー1号は、まるで「これまでのお詫びです」とでも言わんばかりに、あっけなく旅立っていきました。

特殊な体型のせいで市販の洋服がなかなか合わず、飼い主より高級な洋服を着ていたイタリアングレイハウンドも、肝機能障害の治療に月数万円の薬代を覚悟した矢先、「これ以上は出費させられません」とでも言わんばかりに突然旅立っていきました。

そして今。一番手がかからなかったミックス犬の介護に筆者の1日はかかりきりです。どうやら上手く帳尻が合うようにできているんですね。

大変じゃないの?と問われれば、大変だとは思います。

まるで最期のときに向けて日々覚悟を決めておいてくださいね、と念押しされているような毎日でもあり、めげそうになることだってあります。

それでもミックス犬との日々を幸せな時間と感じているのは、もしかしたら罪悪感が形を変えた単なる自己満足か、もしくは現実逃避をしているだけなのかもしれません。

しかしそんな理屈より、今はミックス犬を介護するこの瞬間を大切にしたいのです。

もしも、愛犬が年老いていくことに恐怖を感じている飼い主さんがいらっしゃったら、「年老いて何もかもが衰えたとしても、すべてが愛おしいままですよ!」と伝えたいです。