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プリズンドッグ

この記事の目次

プリズンドッグ――。
アメリカのTVドラマのような響きがありますが、受刑者のことを「犬」と呼んでいるわけではありません。

プリズンドッグとは、刑務所の中で受刑者が犬の育成とトレーニングを学ぶことにより、精神的な成長を促すことを目的とした、3ヶ月間にわたる公正プログラムのことです。
これによって出所後の再犯率を抑え、真なる更生への一助を目指しているわけですね。

受刑者も犬もすさんだ状態からスタートするプログラム

プリズンドッグプロジェクトの肝は、その発案者自身も受刑者だったことです。
1982年に女性受刑者のキャッシー・クインによって発案されました。

そしてこのプロジェクトのもう一つの肝は、育成される犬もまた虐待や飼育放棄などによって行き場を失った犬達である、ということではないでしょうか。
つまり、受刑者も精神的にすさんでいる状態、そして犬達も凶暴であったり人間不信であったりと、同様にすさんでいる状態のもの同士が出会うのです。

そこから双方が希望を見出していこうというこのプログラムは、キャッシーが受刑者だったからこそ発案できたのかもしれませんね。

プリズンドッグが目指すもの

プリズンドッグが目指すのは、受刑者達が今まで目をそむけてきたものに目を向けることです。
プログラムに参加する犬達は、つらい境遇にあったことで、簡単には心を許そうとしません。
つまり、プロジェクトに参加した受刑者は、根気よく犬と向き合わなければならないのです。
それによって忍耐力が養われ、同時に「相手の気持ち」に目を向けるようになっていくんですね。
そして、犬と受刑者が少しずつ心を開き、歩み寄るようになったとき、そこには愛情と優しさと、それから信頼が生まれていくのです。

そして3ヶ月のプロジェクトが終了したあと、犬達は里親のもとへ譲渡されていきます。
それは受刑者が犬という一つの命を救い、手をかけ、心をかけて接したからこそ成しえることに他なりません。
これにより、受刑者は別れの寂しさを感じると同時に、犬がこの先もずっと幸せに暮らすことを願い、同時にきちんとやり遂げたのだという誇りを手にすることになるのです。

日本におけるプリズンドッグ

アメリカでは150箇所以上の刑務所でプリズンドッグが取り入れられ、プログラム参加者の再犯率が激減しています。
プログラムに参加していない受刑者のおよそ半数が再犯という現状の中、ある青年刑務所においては、プログラム参加者の再犯率ゼロという快挙も成し遂げているのだとか。

そんなプリズンドッグですが、日本においても取り組みがなされています。
島根あさひ社会復帰促進センター(犯罪傾向の進んでいない男子受刑者等を収容する施設)において、2009年に受刑者が盲導犬の子犬(パピー)を育成するプログラムが開始されました。
そして、2013年には第一号となる盲導犬が誕生しています。
また、2014年には千葉県八街少年院で飼育放棄された犬のしつけを行う動物介在プログラムが実施されました。

日本ではなかなか普及しないプリズンドッグ

とは言え、残念なことに日本においてのプリズンドッグは、まだ全くと言っていいほど普及していません。
そもそも、日本人には「犬を飼う=子犬から」という感覚が根強くあり、保護施設から成犬を引き取るという発想を持った飼い主があまりにも少ないからではないでしょうか。

それはすなわち、シツケやトレーニングが決定的に下手だからです。
成犬は無理でも子犬からならなんとかなる、という浅はかな感覚の表れに思えてなりません。
日本が犬に関する先進国になれる日は、いったいいつになったら来るのでしょうか。