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犬のヒゲは視覚を補う感覚器官

この記事の目次

「猫のヒゲを切ってはいけない」

このフレーズ、誰もが一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。猫にとってヒゲは重要な感覚器官。

だからこそのフレーズなわけですが、では、猫と同じような位置に生えている犬のヒゲ。犬種によってはトリミングでばっさりカットしてしまいますよね。

となると、犬のヒゲは切ってもいいと判断したくなるところですが、ちょっと待って!実際のところ、犬のヒゲは猫と同様に実は立派な感覚器官です。

となると、本当に犬のヒゲは切ってしまってもいいのでしょうか。

猫に比べてなんだかショボイ犬のヒゲ

長めのヒゲがわりとしっかり生えている猫に比べると、犬のヒゲはどうにもしょぼいような……。

そうだっけ?と思われたかたは、ぜひ画像検索をして確かめてみてください。思った以上に一目瞭然です。ちなみに筆者は犬のヒゲのしょぼさではなく、猫のヒゲの立派さに「さすがは肉食獣!」と驚いたくちですが。

さて、そんなヒゲですが、猫に関して言うなら周囲の状況を察知するセンサーとして重要だというのは比較的よく知られた話しです。空気の流れや敵の動きを感知したりと、猫のヒゲは想像した通りになかなかの活躍ぶり。

では、絶妙に心もとない犬のヒゲはどうなのかといえば、やっぱり見た目そのままに猫のヒゲほどは活躍していません。ではまったくの無駄なのかといえば、そういうことでもないんです。

犬のヒゲはなければないでなんとかなるものの、あったらあったで役に立つ――これが犬のヒゲの真実ではないでしょうか。

犬のヒゲは口の下の障害物を察知するセンサー

犬のヒゲは猫に比べると短いし量は少ないしで、「本当にヒゲとして役に立っているのだろうか?」と疑問に思ってしまうような生え具合。

結論から言ってしまえば、見た目そのままです。犬のヒゲは猫のヒゲほど高性能ではありません。

しかし、これはこれでちゃんと役に立っているんです。ヒゲが生えていれば暗闇や藪の中でも障害物の有無をいちはやく察知することができますが、中でも重要なのは顔の下に何かがあることを感じるための役割。

犬の顔は猫に比べて鼻が前につきだした形状をしていますよね。つまり、犬は前を向いていると口の下がほとんど見えていないのです。

「でも、鼻の横にチョロチョロ生えている程度のヒゲが口の下にあるものを感知できるだろうか?そもそもトリミングでヒゲをカットしてしまった犬だって普通に暮らしていることを考えたら、やっぱりヒゲなんて必要ないのでは?」

などと疑問に思われかたもいらっしゃることでしょう。

犬のアゴの下に生えているヒゲ

しつこいようですが、あればあったで役に立つのが犬のヒゲ。

なければないで、犬たちは聴覚や嗅覚を駆使しています。だからこそ、トリミングでカットされても普通にしていられるわけですね。

ところで、犬のアゴの下には数本のヒゲが生えているのですが、気づいているでしょうか。

プードルやシュナウザーなどのように顔の毛までトリミングが必要な長毛犬種の場合はわかりにくいですが、顔まわりの毛が胴体ほど伸びないチワワやダックスフンド、ポメラニアンなどの犬種であれば、定期的にトリミングをしていたとしても比較的見つけやすいはずです。

短毛種の犬や日本犬、長毛でもブラックタンの毛色であればヒゲの色も黒なので、比較的探しやすいかもしれません。周囲の被毛とは明らかに質の違う、太くて硬い毛がアゴの下に数本生えていたら、それはアゴの下に何かがあることを察知するためのヒゲ

できればそのままにしておいてあげたいところです。

このタイプのヒゲの根元には血管と神経が通っているので、強引に引き抜くなんて絶対にダメ!愛犬に痛い思いをさせてしまうだけではなく、感染症の危険性も含めてろくなことにはなりません。

見た目として「ないほうがいい」というのであれば、人間用の鼻毛切りのように刃先がまるめられた安全なハサミを使い、根元に近すぎない位置でそっとカットするのが安全です。

老犬や失明した犬のヒゲは視覚を補う感覚器

犬はもともと視覚にはあまり頼らない生き物だといわれています。それでも視覚があるのとないのとでは大違い。

もしも愛犬が失明してしまったら、その代わりを補う重要なツールとなるのが感覚器官としてのヒゲです。

現に、筆者の家のミックス犬は両目とも失明しているはずですが、自宅においては「見えているのではないか?」と錯覚しそうなほど普通に動くことができています。

我が家のミックス犬はパピヨンとパグのミックスですが、被毛はパグよりわずかに長い程度のダブルコート。つまりトリミングとは無縁であり、おかげで鼻のまわりのヒゲもアゴの下のヒゲも、すべてが健在のままです。

もちろん、ヒゲは失明している犬だけが便利に使う道具ではありません。犬は高齢になると、感覚の中で最初に衰えるのが視覚です。次に聴覚が衰えて、最後まで残っているのが嗅覚。

つまり、嗅覚のカギとなる鼻に近い部分のヒゲが感覚器として働けば、高齢の犬にとっては物を認識するためにかなり役立つはずです。

本来、必要だから犬のヒゲは生えている

犬の姿かたちは人間の手によって、驚くほど作り変えられてきました。より可愛く、よりカッコよく。

そういった人間のあくなき欲求を満たすことで犬が生涯幸せに生きられるのであれば、それはそれでいいのかもしれません。

なぜなら、現代の日本において犬という生き物は、基本的に人間の整えた環境の中で、人間の決めたルールに従ってしか生きることを許されていないからです。

ヒゲがないほうがより大切にできるというのであれば、切ってしまえばいいのでしょう。人間は見た目を重視するために犬の耳やシッポまで切ってしまうぐらいです。

痛みを感じることのないヒゲを切ることなんて、どうということでもありませんよね。

しかし、ヒゲは一度切ってしまえば元の長さに戻るまでにはかなりの時間を要します。いざ感覚器としてのヒゲが必要になったとき、短くカットされていたら役には立ってくれません。

犬のヒゲは本来必要だから生えている――これだけは飼い主として心にとめておいてほしいのです。