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ドッグフードに記載されている謎の栄養素「灰分」とは?

この記事の目次

世の中には数多くのドッグフードが存在していますよね。しかし、種類はいろいろあっても見た目はどれもそっくり。

とは言え、見た目がそっくりだからといって中味までが同じでないことは、ドッグフードにこだわる飼い主さんなら当たり前の事実として知っています。

それは原材料の欄や成分分析値の欄を見れば一目瞭然。

ところで、成分分析値の欄に必ず記載されている「灰分」。「たんぱく質」や「脂質」については気にしている飼い主さんも、「灰分」はあまり意識することなくスルーしているような……。

ドッグフードに含まれている「灰分」の正体

灰分――。もしかしたら「はいぶん」と読んでいたかたもいらっしゃるかもしれませんが、正しくは「かいぶん」と読みます。

さて、そんな灰分ですが、その正体は何かといえば、まさに漢字で表しているとおり。本当に灰(はい)のことなんですね。

ただし、何の意味もなくドッグフードに灰の数値が記載されているわけではありません。私たちは「灰」といえばなんとなく燃え尽きたあとのカスのようなものを想像してしまいがち。

しかし、食品の栄養という観点からみた場合、この「灰」はすなわち不燃性の鉱物質――つまりは「ミネラル」のことなんですね。「灰」と聞くとなんとなく栄養とは結びつかないのに、「ミネラル」と言いかえたとたんに体に必要な成分、というイメージがわいてくるから不思議です。

そんな「灰」に含まれているのはカルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、リンなどで、これらをまとめて「灰分」と記載しているのです。

灰分は保証分析値としてドッグフードに記載しなければならない

ところで、メーカーは違っても日本国内で販売されているドッグフードには、必ず含有している割合を記載しなければいけない項目が5つあります。

  1. たんぱく質
  2. 脂肪
  3. 繊維
  4. 灰分
  5. 水分

これはペットフード安全法(愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律)によって定められている事項。試しにお家にあるドッグフードのパッケージを確認してみてください。

総合栄養食はもちろんのこと、一般食やトッピング材料などの副食、さらには犬用のオヤツに至るまで、すべての製品に上記5項目の成分分析値が記載されているはずです。

ドッグフードの灰分含有量はどのように求められるのか

ところで、なぜ「ミネラル」ではなくあえて「灰分」と記載されているのでしょうか。それは、ドッグフードに含まれる灰分を求めるために、ドッグフードを600℃前後という高温で燃やして灰にするからです。

燃やすことで水分や有機物(たんぱく質、脂質、糖類、ホルモン、ビタミン、核酸など)を取り除き、最終的に残った無機物――主にはミネラルの量を測定しているわけですね。

とはいえ、無機物以外を完璧に取り除くことは難しく、燃え残りの中にはわずかな炭素などが残ることは珍しくありません。そして理屈からいえば炭素とは有機物を構成している成分の一つであり、無機物――ミネラルに含むことはできないんですね。

また、燃焼の温度や時間によっては本来ならミネラルとして測定するべき塩素の一部や硫黄などが失われていることも。

つまり、純粋な無機物――ミネラルの値だけを分析することは非情に難しく、そのため「灰分」ではなく「粗灰分」と表示された製品が多いのです。

「粗」という字には「おおざっぱ」という意味がありますから、要するに「粗灰分」の分析値は「おおざっぱなミネラルの量」というわけです。

粗灰分が△△%以下、と表示されている理由

総合栄養食にしろ一般食にしろ、その成分分析値に記載された粗灰分の数値には、必ず「以下」という文字がくっついています。

これはメーカーによって「以下」の記載がなかったり、「以下」ではなく「以上」になっている、といったケースはありません。なぜなら保証分析値における記述方法は世界中で統一されているからなんですね。

だからこそ、日本国内で販売されているドッグフードには、国産、外国産を問わず「灰分」には「以下(英語表記の場合はmin.)」のついた数値が記載されているのです。

ではなぜ「以上」ではなく「以下」なのかといえば……。灰分すなわちミネラルは、過剰に配合されていると他の栄養素が体内に吸収されるのを阻害する働きにより、結果的にドッグフードそのものの栄養価を低下させてしまう可能性があるからです。

これはなにも灰分だけの話しではありません。

記載が義務付けられている5項目のうち、「以下」がつくのは「灰分」「繊維」「水分」の3項目

たとえば灰分に含まれているリンが過剰になるとカルシウムと結合し、結果としてカルシウムが不足することに。繊維の過剰はリンの吸収を阻害しますし、鉄分が過剰になると亜鉛や銅が働きにくくなり、それぞれの吸収の妨げになります。

また、水分が過剰になればその分だけたんぱく質や脂質の含有量が減ってしまうことになるわけですね。栄養素はどれもたっぷり摂取することが望ましいようなイメージがありますが、大切なのはそれぞれのバランス。

微量がベストな栄養素を過剰に摂取してしまうと、健康どころかかえって害になることもあり得るのです。

リンの含有量がわからない場合は灰分量を目安にする

腎不全の犬はリンの摂取を制限しなければなりません。そのため、食べさせるもののリン含有量を必ず確認する必要があります。

だからこそ腎臓病用の療法食には必ずリンの含有量が記載されているわけですが、困るのはリンの含有量が記載されていないドッグフードやオヤツ。

食べさせていいのか、食べさせてはいけないのか、判断が難しくなるんですよね。こんなときは、灰分の記載値を参考にするという方法があります。

灰分にはもれなくリンが含まれていますので、灰分量8%以上の数値が記載されているフードやオヤツは避けたほうが無難

また、〇〇ミールという原材料が使われている場合も、ミールには骨が多く含まれており、骨はリンの含有量が多いことを考えると、やはり避けたほうが無難と判断することができます。

いずれにしろ、腎不全ではないにしても、シニア期に入った犬ならリンは摂り過ぎないほうがよいミネラル。灰分の数値をドッグフード選びの判断材料に加えることは、老化した腎臓を守る手段の一つとなるのです。

地味な項目でも重要な意味が隠されたドッグフードの灰分

肉食に近い雑食動物の犬にとって、たんぱく質は一番大切。これはその通りですが、だからといってたんぱく質だけが重要なわけではありません。

たんぱく質の数値にばかり目がいってしまうと、地味でわかりにくい灰分の数値は見落としがちになるでしょう。

しかし、高齢化が叫ばれている日本の犬達にとって、灰分の数値には思った以上に重要な意味が隠されているのです。健康で長生きをする犬の腎臓はもれなく元気――これは紛れもない事実です。