MENU

動物病院でノーリードだったがゆえに起きた悲劇

この記事の目次

先日、腎不全と角膜潰瘍を患っているミックス犬を動物病院に連れていったときのこと。
待合室で診療の順番を待っていたところ、一組の家族が動物病院を訪れました。
年老いた両親と、おそらくは三十代ぐらいの息子さんの三人は、フレンチブルドッグ1匹と黒パグ1匹を連れての来院。
黒パグにはハーネスにリードがつけられていましたが、フレンチブルドッグはノーリードのままお母さんが抱っこしていました。

興奮しているフレンチブルドッグがノーリード!?

本来、抱っこできる大きさの犬であっても、動物病院を訪れる際にはリードをつけておくべきです。
なぜなら、複数の動物が集まる動物病院という環境においては、普段は大人しい犬猫であろうと、どんな行動に出るかわからないからです。
周囲の人間や動物に危害を及ぼす可能性がありますし、その動物自身の安全を確保するためにも、リードの装着は絶対条件なんですよね。

ところがフレンチブルドッグは、見事なまでのノーリードです。
しかも、ずっと抱っこしていられるのか?と疑問に思ってしまうほど、なかなかの体格をしているではありませんか。
さらにはキョロキョロして落ち着きがなく、どう見ても興奮している様子。
とてもではないけれど、大人しく抱っこされている、と表現できる状態ではありませんでした。

気になったのは動物病院の入口が自動ドアであることです。
ドアを抜けた先は駐車場になっているとはいえ、その先はそれなりに交通量のある道路なんですよね。
もしも飛び出してしまったら、交通事故という最悪の事態を招きかねません。
大丈夫なんだろうかとハラハラしながら見ていたら、待合のイスに腰掛けていたお母さんの膝の上に乗っていたフレンチブルドッグが、いきなり暴れて飛び降りたではないですか!
そして案の定、入口に向かって駆けだしてしまったのです。

黒パグまでが走り出し、そして悲劇は起きた

ウソでしょう!?
そう思った瞬間には、フレンチブルドッグは自動ドアへと突進していました。
そして、自動ドアが開き、フレンチブルドッグが外へ飛び出そうとしたその瞬間、30代ぐらいの息子さんが手にしていた黒パグのリードを放り出してダイブ。
見事にフレンチブルドッグを捕まえたのです。

ところがホッとする間もなく、今度はフリーになった黒パグが外に向かって走り出してしまったではないですか。
床に倒れこむような体勢でフレンチブルドッグを捕まえていた息子さんは、もう片方の手を伸ばして黒パグのリードをつかもうとしました。
しかし、おそらくは黒パグのリードを踏んで押さえようと走りこんできてきたお母さんが、息子さんが手を伸ばしたのと同時に自動ドアのところに駆けこんできてしまい、運悪く息子さんの手を思い切り踏んでしまったのです。
息子さんのことを飛び越えて一歩を踏み出した足がもろに手のひらを踏んだわけですから、お母さんの全体重がかかってしまったのは一目瞭然。
しかも、お母さんはなかなかの体格の持ち主で、おそらく70kg代はあったでしょう。
そんなお母さんの全体重が息子さんの手を踏みぬいたその瞬間、「うあぁぁぁっ!!」という息子さんの絶叫が響き渡りました。

飛び出してきた病院の受付の女性がなんとか黒パグを確保し、フレンチブルドッグはお父さんが押さえましたが、息子さんはうずくまったままなかなか起き上がることができません。
しばらくして痛みに顔をしかめつつ体を起こした息子さん。
その右手は人差し指と中指が、本来関節が向かないはずの方向に折れ曲がっていたのです。

犬達を受診させるために来たはずが、人間の病院に直行するはめに

息子さんの顔色は悪く、いまにも痛みによるショック症状を起こしそうな状態でした。
当然のことながら、犬達の受診はキャンセル。
息子さんを病院に連れていくために、一家はあわただしく出て行きましたが、待合室はあまりの出来事にシーンと静まり返っていました。

その直後に我が家の受診の番。
診察室に入るなり、心配顔の獣医さんに「何が起きたの?」と聞かれて、今しがた起きた出来事を説明しました。
すると、獣医さんも絶句。

そりゃ、そうですよね。
ある意味自業自得ではありますが、想像もしなかった悲劇に病院中がなんともいえない雰囲気につつまれたものです。

本当はケージに入れるべき、最低でもリードは絶対条件

最も正しい動物病院の受診の仕方は、動物をケージに入れて移動させることです。
しかし、中型犬や大型犬ではなかなかそうもいきませんし、小型犬であってもケージに入れての移動はなかなか面倒なもの。
待合で大人しくしていられるなら、リードをつけたうえで膝の上に抱っこしているのは、まあ、正直なところアリなのではないかと思っています。

今回のケースは、痛い思いをした息子さんには気の毒でしたが、はっきり言って自業自得。
もしもあのまま病院の外に犬が飛び出していて、誰かよその人にケガをさせてしまったり、もしくは交通事故の引き金にでもなっていたら・・・。
そうならなかっただけマシだったのかもしれません。

抱っこをしていれば大人しくしていられるから。
その過信が犬も自分も、そしてよその人や動物までも危険に陥れてしまうのだと、目の前で勉強させてもらいました。