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下痢止めを飲ませているのに愛犬の下痢が治らない!

この記事の目次

犬は、ちょっとしたことで下痢をする生き物です。
下痢をする原因は様々にあり、一日絶食させればすぐに収まってしまうことも珍しくありません。

しかし、だらだらといつまでも下痢や軟便の状態が続き、下痢止めを飲ませても一向によくならないこともあります。
そんなときは、「この子はお腹がゆるみやすい体質だから仕方がない」と簡単にあきらめるべきではありません。
なぜなら、『蛋白漏出性腸症』という厄介な状態が原因で、下痢が続いているかもしれないからです。

蛋白漏出性腸症とは?

蛋白漏出性腸症(たんぱくろうしゅつせいちょうしょう)――。
なにやら不吉な予感がする漢字の集まりではないでしょうか。

蛋白漏出性腸症とは、血漿タンパク(血漿の約7%を占めるタンパク質)、中でも特にアルブミンが腸の粘膜から腸管腔内に異常漏出することによって引き起こされる、低タンパク血症と、それに伴う症候群の総称です。
・・・と聞いても、何がなにやらわかりにくいですよね。

簡単に言ってしまえば、なんらかの原因によって腸管から大量のタンパク質が漏れ出してしまった結果、血液中のタンパク質が正常値より低下してしまった状態のことです。
そして、それらに付随して引き起こされる様々な症状の総称なんですね。
小腸や大腸の粘膜に慢性的な炎症を引き起こす、慢性腸症の中でも重症の疾患だと言えば、より深刻さが伝わるのではないでしょうか。

要するに、下痢をしている原因がとても厄介なものなんです。
そして、蛋白漏出性腸症がお腹をゆるませている原因だとしたら、下痢止めを飲ませた程度でおさまることはありません。

蛋白漏出性腸症の原因とは?

蛋白漏出性腸症の原因は様々にありますが、症状を引き起こす原因とされているのは「慢性腸炎」「腸リンパ管拡張症」「消化器型リンパ腫」とされています。

慢性腸炎

小腸または大腸の粘膜に、なんらかの原因によって慢性的な炎症が起きている状態。
主な症状/慢性的な下痢、嘔吐、食欲不振

腸リンパ管拡張症

何らからの原因によって腸のリンパ液の流れが妨げられ、リンパ管が拡張、または破綻したことによって機能不全を起こす病気。
その結果、腸の中にタンパク質や脂質を含んだリンパ液が漏出する。
主な症状/慢性的な下痢、食欲不振、体重の減少、浮腫、腹水、胸水

消化器型リンパ腫

腸管などの消化器に白血球の一種であるリンパ球が異常に増殖する悪性腫瘍。
腸管に病変が広がっている場合、吸収不良によって様々な症状を引き起こす。
主な症状/下痢、嘔吐、体重減少、食欲不振、低タンパク血症

このように蛋白漏出性腸症は、大きく二つの系統に分けられています。
一つ目は消化器のリンパ管になんらかの異常があって流れが悪くなった結果、大量にタンパク質が漏出してしまうケース。
二つ目は腸管の粘膜に異常が起こった結果、タンパク質が漏出してしまうケースです。

蛋白漏出性腸症の厄介な症状

本来、血液中のタンパク質には血管内で水分を保持し、適度な血液の量を維持する働きがあります。
ところが蛋白漏出性腸症によって血液中のタンパク質の量が減少してしまうと、血管の外に水分が漏れ出してしまうことに。
その水分が皮膚に漏れ出すと浮腫――すなわちむくみを引き起こします。
また、胸の内部で漏れ出すと胸水となり、呼吸困難を引き起こすことも。
そしてお腹の中に漏れ出すと腹水となって胸を圧迫し、やはり呼吸困難の原因になることがあります。

このように、蛋白漏出性腸症は下痢や嘔吐だけではなく、こういった命にかかわる症状を引き起こしてしまう可能性があるからこそ厄介。
だからこそ、下痢が続いている状態をよくあることと軽く考えてはいけないのです。

蛋白漏出性腸症はどのように診断されるのか

血液検査の結果タンパク質の値が低いと判明したからといって、即、蛋白漏出性腸症であると断言できるわけではありません。
というのも、肝臓の機能になんらかの問題がある場合、肝臓でのタンパク質製造がうまくいかないため血液は低タンパクになりますし、腎臓の機能になんらかの問題がある場合も、腎臓からタンパク質が尿の中に漏れ出てしまい、やはり血液は低タンパクになるからです。
つまり、蛋白漏出性腸症であると正確に診断するためには、血液検査や尿検査のほかに、レントゲンや超音波、心電図検査、内視鏡などの精密検査をおこない、蛋白漏出性腸症の原因となる疾病の有無を確認する必要があるのです。

しかし、人間の場合と違って犬に内視鏡検査をする場合は全身麻酔が必要。
そのため、そこまでの精密検査は実施せずに、蛋白漏出性腸症の可能性が高いという前提で治療を開始するケースも珍しくありません。

蛋白漏出性腸症の治療

蛋白漏出性腸症の原因となっている疾病が確定できたら、そこに焦点を絞った治療が開始されることになります。
つまり、その疾病が治りさえすれば、連動して蛋白漏出性腸症によって引き起こされていた様々な症状も改善される、というわけですね。
原因によって治療法は異なりますが、おおむね抗生物質や抗潰瘍薬、ステロイド、利尿薬などを適宜服用させつつ、さらには胃腸に負担をかけにくい食事療法を取り入れられることになるでしょう。
また、外科手術によって腫瘍などを切除することもありますし、原因が悪性腫瘍の場合は抗がん剤などの化学療法が選択されることもあります。

たかが下痢とあなどるべからず!

食べすぎや運動のしすぎによる下痢と違い、蛋白漏出性腸症による下痢が自然治癒することはありません。
だからこそ、愛犬の下痢が続いているような場合は、手持ちの下痢止めや整腸剤で手軽に済まそうとしてはいけないのです。

下痢はたんなる症状の一つであり、それを引き起こしているのは重篤な疾患かもしれません。
下痢止めを飲ませても愛犬の下痢がおさまらないときは、迷わずすぐにかかりつけの獣医師に診察してもらいましょう。